客観性を磨く最も効果的な方法

黒坂岳央です。

人間は極めて主観的な生き物である。他人へ冷静な目線で意見することはできても、自分自身のことになると冷静さを失い感情的で歪んだ視点になる人も少なくない。理屈で理解できても、実際に自分を客観視できる人は極めて少数派である。

筆者は客観性を磨くことができたと感じるある活動がある。それはYouTuberである。YouTuberといっても豪華なスタジオを用意したり、複数のキャストを準備したりといった大掛かりなものではない。台所で料理の工程を披露したり、プラモデルを組み立てたりと得意なことをプレゼンするのでもいいし、部屋で一人スマホを立ててしゃべるのでもいい。

誰でも即日でできるYouTuberになると、なぜ客観性を磨くことができるのか?

Kirill_Savenko/iStock

初心者はみんな世の中とズレている

知人に結婚相談所を経営する社長がいる。話が面白いのでよく聞かせてもらっているのだが、婚活をする人は自分では謙虚で高望みでない条件を出しているつもりなのに、ほぼ100%が実際は大きな高望みになっているという。

たとえば「40代前半男性、年収800万円。20代女性と結婚したい」という感じだと、同氏によると「十分高望み」だという。確かに一般的には年収800万円というのはかなり高い所得水準ではある。だが、20代や30代でも高度専門職についてその金額をもらっている人はいるし、女性側の視点では40代で年収800万円より、20代で年収400万円で伸びしろがありそうな同年代の方がよほど魅力的に映るというのだ。

特に男性の婚活者は自分の年齢が大きなネックになるという客観的事実を理解していない人が多く、「自分は男性なので相手の年齢は気にするが、自分の年齢は不利にならない」と考えている人が大変多いそうなのだ。そこを指摘して「同年代くらいの相手を中心に探してください」とアドバイスをしてわかりましたと返事をするのに、実際にやっているのは20代女性のみの条件に探し、結果失敗するというケースは本当に多いのだという。

また、自分はYouTubeで複数チャンネルを運営しており、その1つが英語学習のノウハウを発信しているが、似たようなことがある。「中学レベルも怪しい初心者です」という感じの人ほど驚くような高望みを言う傾向が強い。「時間がないので、半年くらいでTOEIC900点取る方法ありますか?」といった「とっておきの裏技、奇策を隠さず教えてください」みたいに言われる事がある。現実問題、語学の勉強は誰がどうやってもまとまった時間がかかるものなので、まずは理想と現実のギャップを伝えて理解してもらうことがスタートラインなのだ。

世の中、みんな大小差こそあれみんなズレているものだが、初心者ほどそのズレは大きい。まずは自分の置かれた位置を正確に把握することが必要である。

YouTuberになると客観性が育つ理由

人前でプレゼンをする、記事執筆、セミナー講師以上にYouTuberは客観性が育つと思っている。ここからはその理由を話したい。

世間で考えられている以上にYouTuberはとてつもなくシビアである。内容がどれだけ良い動画でも、タイトルやサムネイルの引きやSEOが弱ければそもそも見てもらえない。よしんば見てもらえたとしても、冒頭の10秒で「見る価値がない」と思わせたらほとんどの視聴者は即離脱して永遠に戻ってくることはない。またどれだけ話が素晴らしくても、服装や部屋、照明や音声に難があれば聞いてもらえない。最初に数本いい動画を出せても、次の1本の中でたった一言、愚かな発言をして信用を失えばせっかくチャンネル登録してくれた人も波が引くように消えてしまう。

筆者は様々なビジネスをしてきたが、正直、これほどシビアなビジネスはないと思っている。初期の頃は数分間音動画でも再生維持率は20%前後しかなかったが、今では30分、40分の長尺動画でも平均40%以上維持できている。

これは話の技術を学んだだけでなく、撮影して編集した後日、お客さんの視点で何度も何度も自分の動画を見直して「前置きが長過ぎる」「たとえ話がわかりにくい」「音声が聞き取りにくい」といった問題が確認されたら、もう一度とりなおすこともある。そうした小さな改善を膨大に積み上げることで、「最後まで見てもらえる動画」になる。自分は今のトークができるまで3年間以上かかった。

セミナー講師や記事執筆もやってきたが、YouTubeほど厳しくはない。セミナー講師なら、フェイス・トゥ・フェイスで代金を払って参加してくれているので必然的にエンゲージメントは高くなる。記事執筆はマイクの音声や服装、部屋の内装、話し方や声質の要素を排除できるので、純粋に文章力だけで勝負できる世界だ。

その点、YouTubeは評価項目基準が他の媒体と比べ物にならないほど多い上に、質が低ければ残酷なまでに低い評価がデータに反映される。YouTubeは心を病みやすい要素は否定できない。それ故に真剣にやれば客観性が育つ。支持されない動画には必ず改善点が数多くあるからだ。

自分はYouTuberになってから劇的に話し方が向上したと感じる。リアルの場でのコミュニケーションで、結婚式やお葬式で挨拶をする時は上手だと言われることが増え、ビジネスコミュニケーションでは結論から話し、事実と意見を明確にわけ、主張根拠を必ず添えるように無意識にできるようになった。どんな話し方、どんな振る舞いをすれば、相手は話をちゃんと聞いてくれるのか?自分は相手からどのように映っているのか?こうした客観性が育つ、それがYouTube活動なのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。