ドイツの代表的週刊紙ツァイト(オンライン版)は週末に入ると「グッドニュース」だけを掲載して、読者に配信する。10を超えるグッドニュース集はもちろんドイツ人読者を対象としたものだから、他国の読者にとってグッドニュースとは言えないケースもあるが、それは仕方がないだろう。いずれにしても、多くの読者には週末には明るい、希望に満ちたニュースが必要、といったツァイト編集部の配慮が働いているのだ。
それゆえに、というわけではないが、週末前にこの記事を書き終えるべきだと考えた次第だ。ドイツはローマ・カトリック教会とプロテスタント教会の信者数はほぼ半々だ。その両教会に対する国民の意識調査がこのほど公表されたが、両教会関係者にとっては予想されたことだが、やはり衝撃的な結果だ。バッドニュースだ。
大規模な教会会員調査(KMU)の結果が14日、公表された。1972年以来、10年ごとに教会員の意識調査が実施されてきたが、この度はカトリック教会も初めて参加した。テーマは国民の宗教的なむすびつきを調査するものだ。その結果、ドイツではカトリック教会とプロテスタント教会に対する教会員の信頼が低下し、多くの教会員が教会から離れることを考えているという。
具体的には、回答者5282人のうち、10人中ほぼ8人にとって、「宗教はまったく意味がない」(38%)、または「ほとんど意味がない」(40%)というのだ。教会員の中でも、「自分は信者であり、教会に近い」と考えているのはわずか4%(カトリック教徒)と6%(プロテスタント信者)に過ぎない。ただ、少なくとも36(33)%は、「たとえ多くの点で教会に対して批判的であっても、私は教会とのつながりを感じている」と答えている。
KMUはドイツ国民の56%を「世俗的」、25%を「宗教的に遠い」、13%を「教会信仰を有する」、6%を「オルタナティブ」に分類している。全回答者の9%がカトリック教会を依然として信頼していると答えたのに対し、プロテスタント教会では24%だった。カトリック教会への信頼はイスラム教よりもわずかに高いだけで、調査ではカトリック教会員の43%、プロテスタント教会員の37%が「離脱傾向にある」と分類されている。
興味深い点は、カトリック教会に対する教会員の不満からプロテスタント教会が利益を得るということはなく、カトリック教会の脱会者がその後、他の教会(プロテスタント教会)に入会するということはあまり多くない。
ちなみに、アイルランド人で「幸福の王子」や「サロメ」などの作家オスカー・ワイルド(1854~1900年)は死ぬ数日前にプロテスタント教会からカトリック教会に移っている。
ただ、大切なことは、教会員が教会に対して無関心ではなく、抜本的な改革を望んでいることだ。とりわけ、カトリック教会の会員の96%とプロテスタントの会員の80%は、「教会に将来を望むなら根本的に変わらなければならない」と述べている。
例えば、独司教会議が提示した主要な改革案は、①ローマ・カトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。②聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。③女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。④聖職者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。また、教会の社会的関与を期待し、社会相談センターを維持し、難民のために活動し、気候保護を強化することを望んでいる。
いずれにしても、ドイツのカトリック教会、プロテスタント教会が大きな危機に瀕していることは間違いない。聖職者の未成年者への性的虐待の増加などを理由に教会からの脱会者は過去最高を記録している。2021年の教会統計によると、ドイツのカトリック信者総数は2164万5875でドイツ全体で26%を占める一方、プロテスタント信者数は約1972万人で23.5%。ドイツで新旧両教会の信者総数が50%を初めて下回った(「独カトリック教会、脱会者が急増」2022年6月29日参考)。
両教会が国民の信頼を回復し、教会を再び活性化できるだろうか。両教会を取り巻く環境はこれまでにないほど厳しいことが今回のKMUの調査結果で判明した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。