この臨時国会で実質的な議論としては初となる憲法審査会が開催されました。
岸田総理は来年9月までの総裁任期中の憲法改正をめざすとしていますが、自民党含め本気度が感じられません。
一方、戦後、護憲派野党は過半数の獲得による政権交代よりも、3分の1の議席獲得による改憲阻止を優先して来ました。「護憲」にこだわりすぎる結果、憲法改正をめぐって野党が分断され、自民党の一党優位体制を支え続けるという皮肉な状態が続いています。
自民党も本音では、憲法改正が実現してしまわない方が、(野党が分断され)選挙には有利と考えているのではないでしょうか。
やるやると言って憲法改正をやらない自民党と、過半数を獲得して政権交代を実現することより「護憲」にこだわる野党。この「ネオ55年体制」とも言える状況を打破するためには、与野党を超えて一致できる項目で憲法改正を実現する必要があります。
その具体的項目として私たちが提案し続けているのが、緊急事態における議員任期の特例延長規定の創設なのです。
憲法審査会発言要旨(2023年11月16日)
私は、昨年11月17日の憲法審査会で次のように述べた。「昨年の通常国会以降の議論の中で、「緊急事態条項」とりわけ議員任期の特例延長の必要性については、スピード感を持って合意を得るべきテーマとして認識されたと思われる。そこで、会長にお願いがある。法制局に論点整理をしてもらい、論点ごとに合意点をピン留めしていきたい」と。
そして、この提案を受け、法制局が議員任期の延長についての論点整理を行い、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会の4党1会派では一定のコンセンサスが得られたと認識している。さらに、我が党は本年6月19日に日本維新の会及び有志の会とともに憲法改正条文案を取りまとめ、8月19日に3党派合同で公開シンポジウムまで行った。これが、ここまでの経緯である。
しかし、肝心の自民党の取り組みの歩みが遅すぎるのではないか。昨年の臨時国会では実質的な討議が5回できたが、今臨時国会での実質的審議の機会は今日を除けば11月30日と12月7日の2回のみ。岸田総理は、来年9月までの今の総裁任期中での憲法改正に意欲を表明されたが、それであれば、来年の通常国会末には発議しないと間に合わない。逆算すると、今臨時国会で具体的な改正案について成案を得ないと間に合わないことになる。
その作業があと2回でできるのか。少し強い言葉で申し上げると、自民党の憲法改正は、保守層を繋ぎ止めるための「やるやる詐欺」になっているのではないか。自民党の憲法改正に対する熱意、本気度が感じられない。
中谷筆頭幹事に確認したい。岸田総理が表明した今の総裁任期中に憲法改正を実現する気はあるのか。そのために具体的にどのようなスケジュールを想定しているのか明らかにしてほしい。今日もそうだが、残念ながら自由討議という名の「言いっ放し大会」に審査会の先祖がえりしている。議論するテーマを明確にし、合意点を確実にピン留めしていく運営をお願いしたい。
今のスケジュールや運営では、到底、来年9月までに改憲などできない。本当に任期中に改憲したいなら、これまで意見の集約が図られてきた緊急事態における議員任期の延長規定の創設に絞って成案作りを進めるしかない。その際、私たち2党1会派の条文案をベースにしていただきたい。自民党や公明党の意見も踏まえた内容になっている。
今から他のテーマに手を広げても、到底、岸田総理の公約を達成できない。例えば、9条改憲を主張する方もいるが、とても任期中には間に合わない。確かに9条改憲は重要で我が党も2020年にまとめた論点整理を元に積極的に議論を提起していきたい。ただ、現在の自民党案では、戦力不保持を定めた9条2項を存置した上で、自衛隊の行使する自衛権については、これまでの9条2項の解釈の範囲内とする内容となっており、できることは何も変わらない。何も変わらないので、自衛権をめぐる違憲論争も解消されない。
そんな「労多くして益なし」の改憲を本気でやるつもりなのか。我が党は、9条2項を削除するか、仮に残す場合であっても、9条2項の例外として自衛権を位置付けるべきと提案している。わざわざ改憲したのに、違憲論が残り続ける内容では、危険を顧みず身をもって責務の完遂に務める自衛隊の皆さんの期待に応えられない。中途半端な9条改憲案は将来に禍根を残すものとなる。自衛権の範囲を複雑な解釈に依存する現状を改める、いわば「解釈のラビリンス(迷宮)」から抜け出すことのできる、本質的な議論が必要だ。
そこで、改めて自民党さんに確認したいのは、岸田総理の今の総裁任期中に9条改憲まで考えているのか、ご教示いただきたい。
次に、共産党さんにも一言申し上げたい。毎回、赤嶺先生の信念に満ちた発言には敬意を表したいが、共産党が、我が党を含む4党を「悪政4党連合」と呼び「改憲と戦争国家づくりを煽っている」と批判されているのは残念である。不毛なレッテル貼りは、冷静で真摯な議論の妨げにしかならない。
私は、この場で何度も、我が党の考える緊急事態条項は、権力行使を容易にする条項ではなく、有事においても権力を適切に統制するための条項であるということ述べてきたし、そうした考えに基づいた条文案になっている。私たちの緊急事態条項が成立してもナチスは出てこない。どうか、緊急事態条項=戦争国家づくりとのレッテル貼りはやめていただければ幸いである。
野党第一党である立憲民主党さんにもお願いがある。憲法改正絶対反対ではなく、前向きに議論に参加していただきたい。党内に様々なご意見があることは承知しているが、有事における権力行使の適切な統治のあり方については、イデオロギーを超えて、一緒に考えてもらえないだろうか。特に、任期満了時に選挙困難な場合、一定期間は参議院の緊急集会で対応できると思うが、それはあくまで一時的・暫定的であるべきだし、この点については認識を共有できると思う。
また、議員がお手盛りで任期を延ばす懸念についてはもっともであり、だからこそ私たちも司法の関与を提案している。どのような司法の関与のあり方が適切か、ぜひ、立憲民主党さんの建設的意見も入れて成案を作っていきたい。
最後に一言申し上げたい。東京大学の境家史郎先生は、「憲法改正という争点を『軍国主義か民主主義か』というイデオロギー的問題として捉える枠組みから日本人が解放されない限り、この国の『戦後』が終わることはないだろう」と著書「戦後日本政治史」で述べている。
戦後、護憲派野党は過半数の獲得による政権交代よりも、3分の1の議席獲得による改憲阻止を優先してきたために、憲法改正をめぐって野党が分断され、逆説的に自民党の一党優位体制を支え続けている。この境家先生の「ネオ55年体制」論に私も同感である。立憲民主党には、野党第一党として、ぜひ「戦後の憲法問題の呪縛」を解いてほしい。
憲法改正をやるやると言ってやらない与党自民党と、一字一句憲法を変えてはならないとこだわる野党第一党との間の奇妙な共闘関係が続く限り、憲法改正も政権交代も実現しない。自民党、立憲民主党の双方に前向きな憲法改正論議を求めるとともに、私たち国民民主党も幅広い合意形成に貢献し、「ネオ55年体制」を打破していく決意を申し上げて発言を終える。
編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2023年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。