子供に英語を習わせても話せるようにならない理由

黒坂岳央です。

いつの時代でも子供の習い事人気ランキング上位に「英語」が入っている。自分の知るケースでも「英会話教室」「英語スクール」に我が子をせっせと通わせる親は大変多い。「これからのグローバル化の時代、我が子に外国語を」という熱い想いで巨費を投じる熱心な保護者は多いが、その熱意とは裏腹にこうした教育を受けて英語が使えるようになった子供の話はほぼ聞かない。なぜだろうか?

正直、水泳や料理教室など英語を同列に考えるべきではない。幼少期からスクールに入れれば自動的に上達する水泳などとは異なり、英語は本人に主体的な学習意欲、加えて親が外国語について理解していなければできるようにはならないと主張したい。その根拠を取り上げる。

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英語と他の習い事の絶対的な違い

水泳やサッカークラブなど子供に習い事をさせれば、当然だがかなりの程度上達する。もちろん誰もがプロレベルになることはできないが、きちんと通って訓練の回数をこなせばほぼ確実に一定レベル以上には達する。なぜか?それは上達するためのフォームが確立されているからである。

うちの子はもう何年も水泳を習わせているが、もはや筆者よりよほど上手に泳いでみせる。本人は上達意欲はそれほどなく、正直積極的に行きたいわけではないとこぼしまがらも現在はしっかり上達した。理由は簡単、上達するフォームを教師が教え、本人は徹底的にそれをトレース、ズレたら軌道修正を受けることを繰り返してきたためだ。水泳上達のフォームは決まっており、誰でもその通りにやれば伸びる。上達の再現性は極めて高い。これは料理教室なども同じで、徹底して自己流を廃してレシピに逆らわずトレースすればどれだけ不器用な人でもある程度の料理はできるようになる。

ではなぜ、英語は習ってもほとんどの子供はできるようにならないのか?もちろん、できる子はゼロではないが、それでも習い事に参加するプレーヤー全体の母数からするとあまりにも少なすぎる。その理由はシンプルだ。スクールが英語力向上の方法論、上達に必要な努力量、優先順位を知らないか、間違ったカリキュラムで教えている事が多く、加えて英語の場合は上達を実感できるまで必要な期間、努力量が水泳や料理とは比較にならないほど大きなオーダーになるからである。

英語ができない英語教師

自分は英語を教えている立場だが、英語スクールで子供を指導しているという立場の方から英語力上達の相談をよく受ける。「自分ができないのに先生を名乗って教えているのが心苦しい。質問されても答えに窮する事が多いので学び直しをしたい」というのである。英語のできない英語の先生はかなり多いと思っている。

「子供に英語を教える上で高い英語力は不要だ」という人はいる。確かに知識、技術面だけいえばその主張は正しい。だが、自分が上級者になるまで苦心惨憺し、時に挫折を乗り越えて忍耐強く勉強してきた経験なくして他人の挫折をすくい上げる力はあるだろうか?必要なのは難しい英単語を知っていることより、学習者の指導力であり残念ながら指導力は本人が英語にコミットした経験に比例していることが多い。

英話教室の疑問

筆者は子供に英語を教え、学習塾に通わせている。自分自身、独学で英語力を身に着けたので「どうすれば伸びるか?必要な努力量は?」こういったことは完全に熟知した上で、子供の英語学習をリードしている。

自分が子供を学習塾に通わせている理由は、与えられる教材を反復して解かせること、教室で集中して学ばせる目的である。だから学習塾からのフィードバックにはいつも疑問を感じる。「発音と会話が上手ですね」このように言われるが、自分が伸ばしたいのは発音や会話などではなく、英語を英語のまま理解できる回路形成に必要な基礎力だけである。本来、求めているフィードバックではないのだ(まあそこは自分が指導すればいいので、相手に期待していないが)。

ろくに基礎がないうちから発音や会話力向上などはまったく期待していないし、そもそも伸ばすための労力と時間をかけるメリットが皆無だと考えている。おそらく、学習塾としても「ほとんどの親は我が子が英会話力向上したら喜ぶので、会話力が伸びているフィードバックを出したい」というインセンティブが働くのだろうと推測している。このようなフィードバックを受けるとほとんどの親は「先生は会話が上手だと褒めてくれてるよ!その調子で話せるようになろうね!」と会話力向上を意識した応援をするだろう。だが基礎やインプットなき、アウトプットは論理的に破綻しているので会話偏重の教育は実を結ぶことはない。

つまるところ、真の子供の英語力向上には親の英語力、外国語教育における理解が極めて重要だと考える。

親ができねば子もできぬ

立場柄これまで数多くの英語学習者を見てきて共通していること、それは「親が英語ができなければ、子供は英語ができない」ということだ。もちろん例外はあるし、まさしく自分自身がその例外なのだがもうほとんどのケースにこれは当てはまると断言できると思っている。

これまで数多くの英語ユーザー、英語上級者に出会ってきたが、そのほぼ全員が親が英語ができるとか、海外でビジネスをするといった環境で育った人ばかりだ。「親は英語力と関心は皆無だが、とりあえず塾に放り込まれて詰め込まれたけど身についた」というケースを自分は一つも知らない。世の中は広いのでどこかに例外はあるだろう。だが、その例外を目指して我が子を塾に放り込むのは合理的選択とは言えず、部の悪い博打になる公算が大きい。

子供は英語を勉強していて山のように疑問を抱く。

「このinってなんで必要なの?どういう意味なの?」
「なんで英熟語はあるの?単語だけでいいんじゃないの?」
「パソコンを使えば答えがでるのに、なぜわざわざ英語を勉強する必要があるの?」
「学校で学ぶなら塾に行く必要なくない?」

こうした疑問に対し、場当たり的で逃げ口上のような回答を出し続けると子供は疑問が解消されないままストレスを抱えて勉強をする。そうなると勉強の主体性を失い、やらされ感の義務的にこなすようになってしまう。

語学の勉強に求められる時間は膨大なので、主体性なくしてやり切ることは不可能に近い。大人なら「将来役に立つから」「今の嫌な仕事をやめて職業選択の幅が広がるから」というインセンティブを使えるが、子供に必要性を説く方法は通用しない。主体的に勉強をさせるためには親の指導力、外国語理解、子供の特性、心理など多面的な力が必要になる。スクール任せだけで完成させることは現実的ではないのだ。

自分は下手に幼少期から学習塾に通わせるのはむしろマイナスになる事も多いと思っている。なぜならつまらなさを我慢し、義務感で取り組む期間が長くなるほど子供は英語嫌いになってしまうからだ。小さい頃からピアノを学んで音楽家へと大成するのは、本人に強い意欲がある場合のみである。無理にやらせると、かえってピアノに挫折したトラウマを与えかねない。結論、子供に英語力を授けたいなら、まず親からと思うのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。