1. 情報通信業の平均時給
前回は、一般サービス業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)について、国際比較をしてみました。
日本の一般サービス業は、産業の中でも平均時給の水準が低く、労働者数も多い産業であることから、全体に対して大きな影響を与えていそうです。
今回は、金融保険業と共に生産性の高い産業でもある情報通信業の平均時給についてご紹介します。
図1は日本の産業別に見た労働時間あたり雇用者報酬の推移です。
情報通信業(ピンク)は、金融保険業(黄)と並んで水準が高い事がわかりますね。
やや停滞気味ながら、2009年あたりから上昇傾向が続いているように見えます。
最近の数値では、4,000円程となっていて、全産業平均値の2,800円を大きく上回ります。
2. 情報通信業とは何なのか?
OECDの統計上の産業区分である情報通信業には、そもそもどのような業種が含まれるのでしょうか。
まずは改めてご紹介したいと思います。
OECDの産業区分では、J Information and communicationと表記されます。
この国際標準産業分類における項目との対応をご紹介します。
なお、日本語表記は下記サイトを参照しています。
国際連合 Classification on economic statistics ISIC rev4 Jp
OECD 産業区分 | ISIC REV4 大分類 | ISIC REV4 中分類 |
---|---|---|
J 情報通信業 Information and communication |
J 情報通信業 Information and communication |
58 出版業 59 映画、ビデオ及びテレビ番組制作、音声録音及び音楽出版業 60 番組編成・放送業 61 通信業 62 コンピュータ・プログラミング、コンサルタント及び関連業 63 情報サービス業 |
いわゆるIT産業と言われる分類が含まれるわけですが、出版やテレビ番組制作など情報メディアに関する業界が多く含まれていますね。
3. 情報通信業の平均時給の推移
それでは情報通信業の労働時間あたり雇用者報酬の推移について見ていきましょう。
図2は情報通信業の労働時間あたり雇用者報酬について、為替レート換算での推移のグラフです。
日本(青)は1990年代にフランスやドイツと同じくらいの非常に高い水準に達していますが、その後は横ばい傾向が続いていて、2000年代からOECDの平均値近辺でイタリアと同じくらいの水準で推移しています。
近年ではフランス、ドイツ、アメリカなどとの差はかなり大きくなっていて、主要先進国ではかなり低い水準のようです。
産業の中では高い水準に達していますが、国際比較してみるとそれでもかなり低いという事が良くわかりますね。
図3は、生活実感に近いとされる購買力平価によるドル換算値です。
日本は1990年代の高水準が打ち消され、当時から低い水準だったことになります。
2000年あたりからOECD平均値を下回り、イタリアと差を付けられています。アメリカやドイツ、フランスとは2倍程度の差があるのが印象的ですね。
近年になるほど差が開いているのが特徴的です。
4. 情報通信業の平均時給の比較
最後に情報通信業の労働時間あたり雇用者報酬の国際比較をしてみましょう。
図4が情報通信業の労働時間あたり雇用者報酬について、2021年の購買力平価換算値の比較です。
日本は38.0ドルで、OECD30か国中22位、G7中最下位でOECDの平均値48.8ドルを大幅に下回ります。
全産業平均値が19位だったのに対して、順位を落としています。エリート産業程、国際的な順位が低いという典型例に見えますね。
労働時間あたり雇用者報酬 情報通信業
購買力平価換算 2021年 単位:ドル 2021年 30か国中
1位 83.3 アメリカ
2位 73.7 フランス
3位 73.0 ドイツ
12位 54.8 イギリス
16位 48.3 イタリア
22位 38.0 日本
平均 48.8
アメリカ、フランス、ドイツがトップ3を独占しているのが印象的ですね。
特にアメリカは83.3ドルと、1時間80ドルを超え、日本の2倍以上の水準です。
各国とも情報通信業は、全産業平均値を大幅に上回る傾向も確認できます。
日本は良くも悪くも産業間の給与格差が小さいという特徴もありそうです。
5. 情報通信業の平均時給の特徴
今回は、情報通信業の労働時間あたり雇用者報酬についてご紹介しました。
情報通信業は金融保険業と並んで、生産性や給与水準の高いエリート産業ですね。
確かに国内の産業別で比較するとその傾向は確認できますが、国際比較してみるとそれでもかなり低い水準であることがわかります。
情報通信業は、労働者数の少ない産業です。
2019年の労働者数シェアを見比べてみると、概ね3~4%程度です。
生産性や給与水準が高く、労働者数の少ないエリート産業と言った位置づけと言えそうですね。
日本はそのような産業でさえ、国際比較してみるとかなり低い水準というのは意外でした。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。