ドイツの2023年の言葉「危機モード」

ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、ドイツの2023年度の言葉は「Krisenmodus」という。直訳すると「危機モード」だ。ドイツを含む2023年の世界情勢を振り返るならば、納得できる選出だろう。

12月の冬の日の午前、久しぶりの太陽の日差しを受けフォルクス庭園内を散歩する若者たち(2023年12月19日、ウィーンで撮影)

先ず、ドイツを含め欧州が直面している危機を簡単に振り返る。

2019年末から中国武漢発の新型コロナウイルスのパンデミックが3年余り続き、その間、ロックダウン(都市封鎖)、FFP2マスクの着用、予防接種の是非論争などが吹き荒れ、2023年9月3日現在で世界で約690万人が感染症で亡くなった。

コロナ禍が終わったと思っていた矢先、次は戦争だ。ロシアのプーチン大統領は2022年2月24日、「キーウの非武装化、非ナチ化」を掲げてウクライナにロシア軍を侵攻させた。ウクライナ側の強い抵抗もあって、戦いは現在も続行し、停戦の見通しはない。

ウクライナ戦争は第2次世界大戦後初めての欧州大陸での戦争ということもあって、欧米諸国は欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)を通じてウクライナに武器を供給し、状況はロシア対欧米の戦いの様相を深めている。同時に、ウクライナ戦争の影響で世界経済は物価高騰、エネルギー危機に直面、特に、欧州の国民経済はその影響をもろに受けて苦境に瀕してきた。

ウクライナとロシア間の戦闘が長期化の様相を深める中、ウクライナ支援で最大の援助国・米国は民主党・共和党の間の対立が先鋭化し、ウクライナ支援が停止する一方、EU内でもハンガリーやスロバキアなどが武器支援を停止するなど、欧米諸国のウクライナ支援の結束が揺れてきた。

そのような時、今度はパレスチナ自治政府ガザ区を実効支配するイスラム過激テロ組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルに侵攻し、1200人余りのイスラエル人を殺害するという奇襲テロが発生。ハマスのテロに報復するイスラエル軍はガザに侵攻し、「ハマス壊滅」に乗り出している。イスラエル側だけではなく、パレスチナ人側にも多数の犠牲者が出、ガザ地区保健当局によると、ガザ地区での死者数は今月22日の時点で2万人を超えたという。

欧州の盟主ドイツはコロナ禍を皮切りに、ウクライナ・ロシア戦争、イスラエルとハマスのガザ戦争の危機の影響を受けてきた。ドイツの政界は、16年間のメルケル政権から社会民主党、緑の党、自由民主党の3党から成るショルツ連立政権にバトンタッチした直後だった。

ショルツ首相は政権発足時(2021年12月8日)、「Zeitenwende」(時代の転換)というキャッチフレーズを掲げて出発したが、政権任期の半ばを迎え、コロナ禍はようやく峠を過ぎ、ウクライナとロシア戦争では米国と歩調を合わせて何とかドイツのメンツを維持し、中東紛争ではイスラエルへの無条件支持を掲げてきた。

そのような中、今度は政権を吹き飛ばすような危機が国内から飛び出してきた。独連邦憲法裁判所は11月15日、ショルツ政権が2021年末、新型コロナウイルスのパンデミック対策予算の未利用分を気候変動基金(KTF)に振り替える予算調整措置を実施したが、それは違憲に当たると判決を下したのだ。この結果、社会民主党(SPD=赤)、緑の党、そして自由民主党(FDP=黄色)の3党から成るショルツ政権(通称「信号機連立」)はKTFなどへの財政資金600億ユーロを失うことで財政危機に陥ったのだ。

以上、簡単に振り返った。ショルツ政権は任期4年の半分の2年間、複数の危機を同時期に直面してきた。現政権と比較するならば、メルケル前政権の16年間は移民問題などもあったが、相対的に平和な時代だったといえる。

「危機モード」がドイツで2023年の言葉に選ばれたのは当然だ。ちなみに、ドイツの若者の2023年の流行語は「Goofy」(グーフィ)(間抜けな」が選ばれたという。世代が違うこともあって、若者の流行語の背景は良く分からないが、社会、政治の現状を斜めから批判的に見ている若者というイメージは浮かぶ。

上記で挙げた危機以外にも、さまざまな危機が起きている。ひょっとしたら、新しい「危機」が今後も生まれてくるだろう。その結果、人間の精神生活への影響も看過できない。若者にうつ病が増え、自殺する者も増えている。現在の危機は進行形だ。解決の目途が立っていない。現在の危機は2024年に入っても続行するだろう。

いずれにしても、「危機モード」という言葉には本来、一種の「危機管理」という意味合いが内包している、と理解すべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。