エクアドルからの米国やヨーロッパ向けの麻薬の発送が増えている
最近、エクアドルから発送の麻薬の密輸事件がスペインで増えている。昨年9月にはバレンシア港で800キロのコカインが押収された。マラガ港やアルへシラス港でもエクアドルを発送地とするコカインが検出されるケースが増えている。発送地がエクアドルというのは、4-5年前までは珍しいケースであった。
エクアドルが麻薬の出荷国として目立つようになったのは最近の事である。これまでラテンアメリカで麻薬が生産地或いは中継地として量的に目立っていた国はコロンビア、メキシコ、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、ブラジルなどである。これにエクアドルが最近仲間入りした。
エクアドルで麻薬が急増している理由
その主な理由を以下に挙げて見る。
1.エクアドルは、麻薬コカインの最大規模の生産国コロンビアと同じくコカインの生産国として伸びているペルーと国境を接している。この影響で特にコロンビアで生産されたコカインが国内で厳しいコントロールを逃れるべく隣国エクアドルに密輸されるようになった。
2.ベネズエラのチャベス前大統領と同じように反米主義を掲げたラファエル・コレア元大統領(2007-2017)は2009年にマンタ市の米軍基地を撤退させた。この影響で、米国の麻薬取締局DEAの同国内での麻薬のコントロールができなくなった。
3.エクアドルの主要港グアヤキルは比較的コントロールが少ない港であった。しかも、この港からひと月30万個のコンテナーが出港している。(1月15日付「ABC」から引用)。
この中身をいちいちコントロールして行くのは不可能である。これを利用してコロンビアの麻薬組織は麻薬を米国やヨーロッパに送るのにグアヤキル港を利用するようになった。
4.麻薬がコロンビアとペルーから持ち込まれるようになると、それまでの治安体制が不十分となった。2018年に10万人当たり6人が殺害されていたのが、麻薬が持ち込まれるようになってからギャング組織の動きが活発になり、縄張り争いなどから2022年には10万人当たり50人近くが殺害されるようになった。昨年2023年には全国で遂に7200人が殺害された。(1月13日付「BBC」から引用)。
5.犯罪が増えることによって刑務所の囚人も急増。しかも、犯罪者が外人であっても2年在住して市民権を獲得すると法律上国外に追放できないことになっている。その数はおよそ1万5000人。彼らは国外追放ではなく、刑務所にエクアドル人と同じく収監された。
6.刑務所内でもギャング組織同士で争いが頻繁に発生。その中でギャング組織が刑務所内を支配するようになった。そして、そこから携帯電話で市街にある同じ仲間に犯罪指示を出すのである。
7.麻薬が持ち込まれるようになると、それを扱っているメキシコやコロンビアの元締めがエクアドルのギャング組織と連携を結ぶようになった。
8.エクアドルには22組のギャング組織が存在している。その中の主要組織が特にメキシコの麻薬組織シナロア(SINALOA)かハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)と協力関係を結ぶようになった。
22あるギャング組織の主なものを次に列挙すると、ロス・チョネロス(Los Choneros)、ロス・ロボス(Los Lobos)、ロス・ラガルトス(Los Lagartos)、ロス・ティゲロネス(Los Tiguerones)などがある。
この中で最大規模はロス・チョネロスで、シナロアの子分といった関係で活動している。また組織としても一番古く90年代に誕生。そのメンバーはおよそ12000人。リーダーはホセ・アドルフォ・マシアス(通称フィト)。
次に重要な組織はロス・ロボスで、メンバーは8000人。ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンの子分として動いている。このリーダーはウイルメール・チャバリア(通称ピポ)で、警察当局によると死亡したとされている。が、明らかになっていない。
この2つ以外の他のギャング組織もメキシコかコロンビアの麻薬組織からの支援を受けて活動している。
遂にテレビ局までギャング組織が乱入
今月9日に覆面をした武装集団が生放送中のテレビ局のスタジオに乱入するという事件が起きた。と同時に全国の5か所の刑務所で180名近くの刑務所職員が人質にされた。が、これは数日後に軍隊によって解放された。
この乱入事件に加え、ロス・チョネロスのリーダーフィトが刑務所から逃亡して行方をくらましている。この二つの事が重なって起きたことから、政府は遂に非常事態宣言を発令したというわけである。
若いダニエル・ノボア大統領は企業家として大統領選に出馬して、昨年11月に大統領に就任したばかりである。政治経験がまだ少ない彼にとって手探りで対処しているというのが現状である。