慰安婦は性奴隷ではなかった(古森 義久)

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顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

日本軍のいわゆる従軍慰安婦問題ほど日本を傷つけた虚構は珍しい。その虚構がアメリカの実績のある法律専門家によって、改めて裏付けられた。ハーバード大学ロースクールのJ・マーク・ラムザイヤ―教授による新刊書「慰安婦性奴隷説をラムザイヤ―教授が完全論破」(ハ―ト出版)によってである。ワシントンでの慰安婦問題での不当な日本攻撃を目撃し、反論までしてきた私にとっては深い感慨を覚えさせられる書だともいえる。

慰安婦問題では2007年7月31日は日本の国家や国民への汚辱の日だった。同盟国のアメリカの連邦議会下院が「日本の政府や軍はアジア各地の女性を集団的に強制連行し、20万人を日本軍の性的奴隷とした」という虚構の決議を採択したからだった。しかもこの決議は日本政府に対して、その時点での反省や謝罪、賠償までを求めていた。

だがこの決議は虚構の主張に基づいていた。この年、2007年に民主党が多数を制した同下院で中国や韓国さらにアメリカ学界の左傾反日派と結託したマイク・ホンダ議員が主導した虚偽の主張が通用してしまったのだ。ホンダ議員は日系人とはいえ、カリフォルニア州に拠点をおく中国系の「世界抗日戦争史実維護連合会」に激励され、主導されての日本糾弾の決議案を連邦議会に出したのだった。この「抗日連合会」は中国共産党政権とも確実な絆があった。

しかしこの決議案の主要部分は事実に反していた。だからこそそんな決議のアメリカ議会での採択は二重三重に日本にとっては汚辱だったのである。

その時点でこの書が紹介するラムザイヤ―教授の研究論文が認知されていれば、そんな汚辱は起きなかっただろう。本書はハーバード大学ロースクールの法学者というだけでなく、日本の法律や経済にも精通したラムザイヤ―氏が慰安婦の真実について明確な証拠をあげた精緻な論文を紹介していた。その要旨は慰安婦とされた女性たちが日本の公娼制度を基礎とした高額な賃金支払いを前提とする民間での任意の期限つき商業契約だったことを立証した複数の論文だった。要するに慰安婦とされた女性たちは商業的な売春婦だったというのである。

ラムザイヤ―教授は日本やアジアでの貧困が不幸な売春を生んだことへの同情をも表明していた。この点、アメリカ人のキリスト教宣教師だった父親の下で少年時代を九州で過ごした同教授には日本や日本人への温かい思いもあることが学術論文のなかでさえ、感じさせられる。

しかし本書でのラムザイヤ―論文が最も重点をおくのは日本の政府や軍が若い女性たちを組織的に連行したり、強制的に売春をさせた事実はなかったという点である。

だから本書は日本の国家国民へのおぞましい冤罪、そして汚辱を改めて晴らす第一級資料でもあるのだ。

だがさらに衝撃的なのはラムザイヤ―教授自身へのアメリカ学界、とくに日本やアジアの研究分野の人たちからの迫害である。同教授の新論文の米側学術誌への掲載が決まった段階から同教授への脅迫に近い攻撃が始まったことを教授自身が具体的に伝えている。

その種の攻撃をする側は吉田清治という人物によるウソの報告に明らかに依存して、「強制連行、性的奴隷」説を打ち上げてきた事例も明確だった。さらには朝日新聞が後に全面撤回した一連の慰安婦強制連行報道をも根拠にして性的奴隷説を唱えてきた学者、研究者たちも存在したことも明らかだった。虚構の上に立った虚論を正論だと叫んで、正論を攻撃する、という茶番のような展開だったのだ。

さらに注目すべきは本書の報告するラムザイヤー論文の1本がアメリカ下院の日本糾弾決議の16年前に発表された事実でもある。この論文だけでも日本軍の慰安婦が「性奴隷」でも「強制連行」でもなかったことが証される。日本側がこの種の資料を使い、早い段階で反論していれば、日本全体への汚辱も避けられたかもしれない。本書の示す教訓の1つだろう。

日本側ではアメリカ下院での決議案が審議され、採決にかけられる過程で、すでにその内容には虚構が多いことはかなり広く知られていた。だが日本政府はもとより民間でも、その虚構を虚構だと正面から指摘する動きはなかった。やはりこの種の不当な非難に対しては日本側自体の正面からの早い段階での反論が欠かせないのである。

古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。