仕事中の水分補給に怒るクレーマーの心理

黒坂岳央です。

昨今、あちこちで「スタッフも◯◯させていただいております。ご理解の程よろしくお願いします」という張り紙を見る。筆者のよく行くスーパーにも「水分補給をしております」「トイレも共同で使用します」といった張り紙がある。こうした張り紙があるということは、それだけクレームを付ける人がいるということだ。

得にしつこく叱りつけ、意見の域を超えるような一部のクレームは、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)に定義してもよいだろう。窓口でその対応をさせられ苦痛を受けるスタッフもまた、労働者だからだ。

Kiku/iStock

我が国は人手不足で労働生産性を高めなければいけない中で、こうしたクレームやカスハラはサービス業で大きな足かせになる。

「お客様は神様」は本来、販売者側が持つべき哲学だったと思うが、いつの間にか購入者側が強く意識するようになってしまった。これまでは真摯にクレーマーにも対応していた店舗も多かったが、もはやどこも限られた労働者の奪い合いで、そんなムダな労力を使う余裕はないはずだ。クレームを付けない大多数の人からは理解できない、彼らの心理を論考したい。

クレーマーの価値観

そもそも、なぜクレーマーが理解不可能な文句をつけるのか?まずはその思考回路を理解する必要がある。自分は人生でこのようなクレームを付けたことは1度もないので、あくまで仮説の域を出ないがあながち的外れでもないと思っている。

理由はズバリ、ストレス解消である。人間は普段、自分がされていることを他人にもする。優しくされた人は他人にも優しくするものだし、その逆に辛く当たられている人は他人にも同じことをする。つまり、忙しく働く店員さんの粗を見つけてグチグチと文句をつけるのは、普段同じように自分たちが上司や取引先からされていると「感じている」人種と推測ができる。

一方的にストレスを溜め込むと精神的な均衡が取れない。故に自分より立場が弱いものへ怒りをぶつけてストレス解消をするのだ。ちなみにクレーマーが一番恐れるのは相手からの思わぬ反撃だ。過去記事クレーマーも外国人コンビニ店員に弱腰な3つの理由で書いた通り、ネームプレートを外国人名にすると彼らは恐ろしくてクレームは付けられないのだ。

さらに客観性の欠如があるだろう。一般常識を持つ人ならある程度の客観性がある。故に自分が愚かで迷惑行為を客観視できる力があれば、忙しく働く相手のじゃまは申し訳なくて普通はできない。しかし、彼らはこの客観性がなく、視野狭窄に陥っているからこそ自分の行動を省みないのだ。

カスハラが負ける時代へ

労働者が働く会社には、安全配慮義務としてカスタマーハラスメント防止措置をとる義務が生じる。また、昨年9月には厚生労働省が「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正しており、カスハラ行為を労災認定基準に加えた。これまで泣き寝入りするしかなかった企業側は、従業員を守る義務と大義名分ができたのである。

パワハラもセクハラはもはや「知らなかった」では済まされない時代になった。カスハラも同列に考えるべき時代になっている。客観的に見ればカスハラというのは、立場の強弱の違い(実際にはないのだが)を利用したただの暴力行為である。もはや昭和ではない。労働不足で働く人が貴重な現代、カスハラでムダに企業の労働力や生産性を削られることは日本社会全体の活力を奪う経済犯罪と同義なのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。