バンクーバーで32年も仕事をしていると様々な日本企業、日系企業の動向を歴史的な軸で捉えることができます。そしてその多くが敗退という点は残念な話ですが、事実でもあります。日系企業がバンクーバーで勝てない理由はいくつも挙がります。経済規模がカナダ3番目の大きさの街で常にアメリカとも比較され、ビジネス拠点として光が当たりにくいと考えています。アジアのゲートウェイだけどビジネス都市のトロント、モントリオールからは隔離されカナダの「後背地」とされた政治、経済的立ち位置など思い浮かびます。政権もビジネス寄りではありません。よって日本のようなビジネス環境を求めるには中途半端なのです。
ですが街の規模うんうんだけではなく、日本企業が勝てない理由は他にもあります。キーは日本企業が国際的感性を持っているか、社員なり駐在員なりがローカルのビジネスを取り込む意欲をどれだけ見せるのか、そこが勝負どころなのだと思います。
かつて当地でブイブイ言わせた日本の会社の多くは日本人需要に支えられたものでした。旅行関係、日本食レストラン、各種サービス事業もカナダ在住の日本人向けや日本人旅行者の間で上手く廻していたわけです。ところが日本人は中国、韓国人と違い、群れない性格なのでむしろ日本人を避けることもあるわけです。例えば当地の寿司屋のカウンターでつまんでいれば寿司屋のオヤジが会話に首を突っ込んでくるし、居酒屋から誰と誰が来ていたという話が時々聞こえてきたりします。ですので「会話を聞かれたくないなら日本の店には行くな」になるわけです。
ではカナダにずっといる日本人ですらローカルビジネスを取り込めないのは何故なのでしょうか?ズバリ申し上げると「ローカルの人って面倒くさい」なのです。この意味は客から「あぁでもない、こうでもない」といろいろ要求されることが「ウザい」わけです。おまけにうまく出来なければ文句はクレーマー並みに言われます。普通の日本人なら凹みます。
私のビジネスは売り上げ的に言えばほぼ全部ローカルの方からです。これは私がカナダに来た時から変わりません。先々週、弊社で運営するマリーナの年間係留契約の更新の書類を全顧客に送りました。今年は平均5%の値上げを提示させて頂きましたが、早い人は10分で署名された契約書を送り返してきます。そして多くはそれに一言二言、嬉しいコメントがついています。顧客は皆、私たちが大好きなのです。
なぜ好きか、といえば問題点にはすぐに対応する、なるべく予防的措置をとり、トラブルになる前に対策を施す、そして現場スタッフは全員カナダ人のベテランを揃えていることです。私は契約を、私の右腕は集金などマネー関係をやりますが、いざとなれば私たちも現場で汚れ仕事でも何でもします。そしてそれ以上に客とよく会話するのです。現場スタッフは特にそれが上手で仕事をしているのか、井戸端会議をしているのかわからないですが、億円単位のクルーザーを所有する社会的地位のある方々の信頼を得るのは自分から突っ込んでいくしかないのです。
書籍部門も確実に売り上げが伸びてきています。特に私たちは小売りもしますが、卸が主体でカナダの大学や日本語学校向け教科書はかなり強いと思います。理由はオーバーヘッド(管理費)がほとんどなく、東京に輸出会社と拠点もあるので垂直展開を図っているので安いのです。2019年末から始めたこのビジネス、教科書の卸の金額は一度も価格改定していません。輸送費が高騰したあの時を含め、全部それを吸収できるのは無理をしているのではなく余力があるのです。
企業の多くがM&Aを通じて大きくなっていき、顧客を吸い取り、中小企業を蹴散らかします。しかし、裏返せば彼らのオーバーヘッドや買収の償却に伴うコストは大きいのです。私がアマゾンと価格的に変わらない金額で提供できるのでは彼らは大量の荷物を捌くことでコストは下がりますが、マーケティングやオーバーヘッドが非常に重いわけです。それを均すと私のような弱小と変わらなくなってしまうのです。これらと比較すると小粒でそこまで人件費が高くない日系企業なら安くても利益が出る、しかも良い仕事ができるという優位性はあるのです。
ただ、それがローカルの方になかなか認識されない、それがとても残念なことなのです。潜在的には日本人と日本企業の能力なら世界で勝負できます。なのにその才能を発揮できていない、それが私の32年間見続ける海外における日本企業の現状だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月22日の記事より転載させていただきました。