日経平均株価が最高値:ようやく生まれてきた貯蓄から投資の機運

バブルの申し子のような私にとって80年代後半の高揚感と今の社会の雰囲気を比べると比較にならないほど盛り上がりに欠けます。先日も日本のニュース解説で専門家が「好景気な業種がある半面、個人の生活は非常に苦しい」と言い切っていました。ただ個人的にはその表現は頂けません。「非常に」という言葉は「平常よりかなりブレた」という意味ですからこの専門家が何をもって「非常に」という表現を使ったのかわからないのですが、一般ニュースの解説としては言葉には十分気をつけるべきだろうと思います。

CHUNYIP WONG/iStock

さて私が東京に1週間強滞在した限りの実感としては「プチ好景気」だろうと思います。トリクルダウンがあったかどうかはわかりませんが、比較的広範囲の方々の表情が柔らかくなり、財布の紐も少し緩めだったと思います。「賃金上昇の実感はありますか?」「株価が上がっていますが、生活具合はどうですか?」といった街角インタビューが当たり前のようにニュースの中に組み込まれていますが、あのコメントをまともに聞いていたら9割の人は間違った印象を持ち、テレビ局の思惑のとおり誘導されてしまいます。日本人はどんなに景気が良くても宝くじで1億円当たっても「ホクホクですよ」とは言いません。控えめな表現が日本人の特性ですから。

貯蓄から投資というアプローチは過去何度かあったかと思います。証券会社が主導し、政府が旗振りをやったりと四苦八苦したにもかかわらず「やっぱり貯蓄が安心安全ね」で一年で10円も利息が付いたと喜ぶ奥様方にどうお言葉をおかけしてよいか悩んだものです。「だけど減るよりいいじゃない」と言い返されれば「ごもっとも」と言わざるを得ない日本の株価の長期低迷がそもそもの問題であったともいえるのでしょう。

その点、東証改革もだいぶ進み、外国人からみた「投資の安心安全」を提示することで海外マネーを受け入れやすい素地が出来たことは歓迎すべきなのでしょう。個人的には細かい点において不満もありますが、大所高所の見地からは投資の土壌改良ができたこと、それを踏まえてバフェット氏やアメリカの投資ファンド、機関投資家、大物ファンドマネージャーらが来日し、日本市場を改めて見直したこと、中国向け投資の不調と日本向けへの振り替え、そして世界のインフレが収まりつつあり、欧米は利下げの機運を探る展開になっていること、アメリカはこれだけの高金利にも関わらず企業業績が落ち込まず、生成AIを軸とする新たなテーマが生まれていることなどは好循環だと思います。

そして日本独自の理由としては超えられなかったあのバブルの高値に遂に到達したことが最大のメンタル上の変化になるとみています。日本人はセロトニンが少なく、不安感を醸成しやすいのですが、常にネクラ、下向き、不安いっぱいというわけではなく、お祭りになると120%以上の力を発揮し、常識やルールが当てはまらなくなることがしばしば起きるのです。オリンピックで一人が金メダルを取ると一気に「俺も、私も」という雰囲気が出来たり、高校野球で勢いに乗る下馬評になかったチームが優勝までしてしまうのは同じような心理状態に陥るからです。

日経平均が今年、何処まで上がるのか私はあえて予想をしていません。というより出来ないのは「気分次第で責めないで」というサザンの曲ではありませんが、アナリストの分析を全く無視した動きになる可能性がより強まったからなのです。私は日経平均が4万円を超えるかもしれないとは申し上げていますが、仮にそうなれば祭り状態になります。

日程的には一部の自動車会社の回答が出始めていますが、春闘全般でかなりの高額回答、満額回答が続くとみています。この平均賃上げ率がインフレ率を上回りそうです。また人材不足でバイトや非正規雇用の人たちの賃金も底上げが期待できます。「春闘は大手だけでは?」と言われると思いますが、今の人材不足の時代にバイトですら時給1200-1400円出しても見つかるかどうかです。

続いて夏の賞与があります。これも個人的にはかなり高い金額が出るだろうとみています。一方で日銀が金融政策の正常化を行うはずですが、政策金利が一気に上がるわけではなく、YCCを撤廃し、ゼロ金利への誘導を止めるところから始まるわけで突如、金利が急上昇するわけではありません。よって住宅ローンを組んでいる方への影響は軽微のはずで、心理的なマイナス要因より実質的なプラス要因の方が大きいとみています。

ところでバブルの頃、投資ないし、投機は人の無限の欲望を満たすための手段でしかなかった気もします。ゴルフ会員権や絵画などの価格の高騰は狭い市場における需給バランスの変化が価格の急騰を生んだと言えます。では今の株式投資ブームのすそ野がひろがるとすればどこにマネーは向かうのでしょうか?個人的にはビットコインと仮想通貨は引き続き高いポテンシャルを持つとみています。特にビットコインは投資対象物として一応お墨付きとなっているので今の水準から大きな展開があってもおかしくないかもしれません。

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不動産は物件の立地を選べば上がるものは上がると思います。都心に近くないとダメだと思います。少子化社会に於いて需要が定常的にあるのは海外投資家の売買対象エリアである必要があります。私鉄沿線とか、駅からバス便とか歩いて7分以上になると厳しいと思います。また高級住宅地が先に価格を主導し、そのすそ野がじわっと広がる感じを予想しています。

今年は1989年から35年という節目。あの後、バブル崩壊で苦い思いをした方もまだ生きていればほっと一息つけるのが今年のマネーの動きになるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。