森林環境税による増税が始まる今こそ、住民税減税を!

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令和6年度から個人住民税への上乗せ増税が始まる

令和6年度から森林環境税の徴収が始まります。森林環境税自体は国税ですが、地方税である市区町村の個人住民税の均等割に上乗せして徴収されます。

目黒区の個人住民税均等割額は本来、年額で区民税3,000円、都民税1,000円、合計4,000円ですが、平成26年度(2014年)から10年間、東日本大震災の復興財源確保のための税制措置として、年額1,000円が上乗せされて、直近10年間は毎年5,000円でした。

都道府県民税や市民税額は、自治体独自の環境税などにより地域によって異なりますが、この復興財源のための1000円上乗せというのは、どの自治体でも同じです。

令和5年度でこの復興財源分の上乗せが終わり、本来は令和6年度から年額4,000円に戻るはずでしたが、名前を変えて森林環境税として、住民税均等割に年額1,000円の上乗せになれば、結果として、令和6年度以降も区民負担額は合計で5,000円になります。

この点、「個人負担額は今まで通り」という体裁ですが、実質的には1,000円の上乗せが終わるタイミングでのスライド増税です。

集めた税金は森林がない都会にも配分されている

そもそも、森林環境税として広く薄く全国の納税者個人から徴収した税金は、森林環境譲与税として全国の自治体に配分されますが、森林をほぼ持たない都市部の自治体では、分配金を貰っても目的にそぐう活用が難しい、という皮肉な課題が散見されています。

森林環境税は、いびつな仕組みで、税を徴収するのは令和6年度からにもかかわらず、その5年前の令和元年から森林環境譲与税が、全国の自治体にばら撒かれています。

目黒区では、毎年3000万円程度が森林環境譲与税として入ってきており、区有施設の床の改修、学校の机や椅子の購入、駒場野公園や菅刈公園の林の保全事業などに使われていますが、これらは森林環境譲与税を受け取る以前から行なってきたことです。

先日も、各自治体議員向けの、森林環境譲与税の使途を考える勉強会に参加してきましたが、税をもらってから使い道を考える仕組みなど、本末転倒です。

既に37府県で地方独自の森林環境税がある

そもそも、森林環境保全が必要な山林を持つ自治体では、地方税として森林環境税を独自で創設しています。その始まりは、平成15年(2003年)の高知県であり、県民税の均等割に年額500円が加算されています。その後、全国の自治体に広がり、今や37府県で独自の森林環境税を作っています。 加えて、市区町村でも環境税を作っている自治体もあります。

こうした自治体では、森林環境税が2つになるので、今年度から始まる森林環境税のことを「国の森林環境税」と呼んでいます。皮肉な話です。

例えば、横浜市では、「みどり税」として、樹林地の保全などを目的に、900円を個人住民税に上乗せして徴収しています。更には、神奈川県も、「水源環境保全税」として住民税均等割に300円の上乗せ、プラス、住民税所得割に0.025%の上乗せをしています。ということは、神奈川県横浜市の納税者は、地方税の環境税だけでもダブルで、1200円以上の住民税上乗せ分を支払っている上に、来年度からは国の森林環境税も加わって、トリプルで環境税を払う状況になっています。

増税で環境はよくならない

こうして多くの自治体で、独自の環境税を作り、住民税に上乗せをしてきているわけですが、森林環境は良くなっていません。

だからこそ、森林環境保全のお金が足りないとして、国まで森林環境税を始めたわけですが、こうした状況を鑑みると、増税しても環境はよくならないということが、お分かりではないでしょうか。

ちなみに、埼玉県では、2005年に「埼玉県みどりの環境税」が検討されましたが、結果として新税を導入せず、代わりに自動車税の一部を「彩の国みどりの基金」として積み立てて環境保全のために活用しています。本当に環境が大事なら、安易に増税に走るのではなく、今ある予算から捻出できるはずです。

こうしたことを背景に、私は森林環境税創設の意見書が上がった頃から反対でした。

とはいえ、この森林環境税は国税ですし、法律で定められてしまった以上、目黒区だけ施行しないわけにはいきません。法律施行のための条例改正の際に否決され、条例改正ができなかったとしても、国で決まったことを地方で覆す方法はなく、制度の狭間に陥るだけです。なので、不本意ながら条例改正には賛成しました。

森林環境税そのものについての指摘は、このくらいにしておきます。

家計で使えるお金は30年前より1割も減っている

一方で、区民の負担という視点に切り替えましょう。国民負担は年々増加しています。国税庁データによると、令和4年(2022年)の給与所得者の平均給与は458万円で、国民負担率は46.5%。30年前の平成4年(1992年)の平均給与は470万余で、国民負担率は36.0%でした。

平均給与は、横ばい若しくは若干減っているのに、国民負担率は10%も上がっています。つまりは、30年前に現役世代だった人より、今の労働者は、1割も使えるお金が減っているということです。

更には直近の物価高や円安で、家計の負担がどんどん増え続けている現状において、森林を持たない都会で、納税者個人に更なる負担を強いることには、合理性がないと考えます。

既に地方税で森林環境税を作っているところも同じです。我がまちの市民に、二重で森林環境税を負担させる必要があるでしょうか。

給付より減税が望ましい理由

家計負担増を背景に、生活支援策として、自治体独自でお金を配るところもありますが、お金を集めておいて、事務コストをかけて給付する位であれば、最初から取らない、つまり集める額をその分減らせば良いわけであり、このシンプルさが減税のメリットでもあります。

ちなみに、昨年末から国が実施している4万円減税案は、合間に給付が何回も入り、非常にややこしい仕組みになっており、本来の減税のメリットが生かされていません。

給付にかかる事務作業としては、最低限でも、対象者をリストアップし、お手紙を作成して対象者に送付し、銀行振込をするというような作業が発生します。大概は外部委託で行なっていますが、ミスが許されず、個人情報を扱う重要な業務なので、結構な委託費用も発生します。それとは別に、一人一人の口座に振り込むための振込手数料も発生します。給付事業の予算のおよそ1割は事務コストに費やされているとも言われており、非常にもったいない。

この感覚をわかりやすい例で言えば、海外旅行に行くときの、現地通貨への両替です。足りなくなるかもと思って多めに両替をすることが多いでしょう。その両替には手数料が発生します。でも現地で現金を使わなかったので、やはり日本円に戻したいという場合、再度、両替手数料が発生します。行ってこいで、往復1割くらい損することもあります。この手数料、つまりは事務コスト、非常に勿体無いと感じませんか?

自治体独自でできる減税を始めよう

そこで私は、シンプルに住民税の減税を提案します。国の森林環境税という名で、全国の自治体の個人住民税均等割に年額1,000円上乗せして賦課徴収される分、自治体独自で、年額1,000円の個人住民税減税を行い、増税による納税者の負担を軽減したらどうでしょうか。

森林環境保全をしたい自治体が、独自で増税して住民税に上乗せするのと反対に、国の森林環境増税による、住民の負担増をそのまま受け入れるのではなく、独自の住民税減税で、我がまちの市民の負担を軽減しましょうということです。

例えば目黒区の場合、目黒区の納税者数が約17万人であることから、この減税に必要な予算は約1億7,000万円、10年分の予算でも17億であり、令和5年度の財政調整基金残高(見込み)389億円から捻出するにしても、十分可能な額ではありますし、そもそも1300億円という目黒区の予算規模からして、毎年の1億7千万円という金額は、予算の0.01%程度であり、基金を使わなくとも、工夫次第で捻出可能です。

 

役所側は、応益負担の原則を持ち出し、「住民税は自治体が提供する様々な行政サービスの資金源」なので住民サービス維持のために住民税減税は妥当ではない、というような反応をしますが、ふるさと納税制度で他の自治体に寄付すれば住民税の税収は減りますし、目黒区では令和4年度は約34.2億円の減収で、この減収額は年々増えています。

この減収は我がまちの住民とっては何のメリットもありませんが、住民税減税は、減収ぶんがそのまま住民の負担軽減に直結します。住民サービス維持のために減収を心配するならば、ふるさと納税対策を図るべきです。

そもそも、給付事業を行う際に、「給付に予算を使う代わりに、他の住民サービス維持が難しくなる」などという言い方はしません。家計が苦しい現状で、国が森林環境税として個人住民税に年額1000円上乗せしてきたことに対する、家計負担を軽減するための減税ですので、どの自治体でも無理な額ではないでしょう。ふるさと納税で潤っている自治体なら、尚更です。

減税は単なる減収ではなく、住民負担の軽減であり、住民負担の軽減は、住民サービスです。住民の生活支援のために、税金を減らすのです。相次ぐ様々な負担増に対し、住民のために、自治体独自でできる減税を、今こそ始めましょう。