サル不足に鈍感な国:これでいいのか日本は?!

Thirawatana Phaisalratana/iStock

2月23日のScience誌に「Giant monkey facility could ease U.S. shortage」というタイトルの記事が出ている。米国ジョージア州の人口14,000人の街に、30,000頭のサルを飼育する施設を造り、米国のサル不足を解消する計画を紹介している。コロナウイルス感染症流行前後で研究用に利用するサルの価格が1頭7千ドルから2万ドルに高騰したという(日本で聞く話では1頭70万円から500万円になった)。

米国では年間70,000頭のサルを研究用に利用していたが、その半分以上が中国からの輸入であった。しかし、コロナ感染症流行後の2020年以降、中国がサルを輸出しなくなったため、全世界的にサルが不足し、価格が高騰したのだ。

研究や薬剤開発に利用するサルを減らす動きはあるものの、現時点においてゼロにするのは無理である。再び、感染症の流行が起こった時の備えとしても、一定数のサルを維持しておくことは国家的な危機管理対策として、絶対的に必要なことだ。

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所には霊長類研究センターと薬用植物センターがあり、前者は約2000頭のカニクイザル、後者は3000-4000種類の薬用植物の種子を維持している。恥ずかしながら、理事長に着任するまでは、このような日本の医学研究の根幹を成す重要施設があることは知らなかった。

日本の国家安全保障の常識的な観点で考えると、90%を輸入に頼る薬用植物の維持管理や感染症対策やバイオテロ対策としてサルの維持管理は不可欠だ。特に病原性のある細菌やウイルスにさらされない環境で飼育されているサルは、新規感染症対策として極めて重要だ。

米国の危機意識が現れているのが、冒頭の「町を挙げてサルの飼育する施設」の話だ。もちろん、動物愛護の観点で反対する声もある。

この国には、先のコロナ感染症流行で目にしたように、国を守るためにという十分な危機意識がない。だからPCR検査の備えもなかった。防衛装備だけで国を守ることができると思ったら大きな間違いだ。

永田町にも霞が関にも科学的なリテラシーが決定的に欠如している。どうする日本は!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。