『DXマガジン』というメディアに昨年8月、「仕事を成功に導くのは情熱である。情熱が自分も周りも動かしていく」と題された、総編集長・鈴木康弘さんの記事がありました――情熱を注がず仕事に取り組んでも成果は見込めません。そもそも非効率だし、ミスさえ生みかねません。(中略)一方、自分のために注ぐ情熱は長続きしません。仕事にムラが出やすく、仕事に意欲的に取り組むモチベーションとしては不向きです。人のためにという情熱は、周囲も動かします。強い気持ちで行動する姿勢は周囲の共感を呼び、多くの人が協力を惜しまなくなります。(中略)この関係が仕事を成功へ導きます。
例えば松下幸之助さんは実に百二もの指導者の資質条件を挙げられて、「百二の項目全部を完璧に実行できるような人は、神様でなければいないだろう」と言っておられます。又その上で、「仮に三〇パーセントでも、あるいは二〇パーセントでも、その項目が実行できているという状況でなければならない。八〇パーセントの項目があれば、別に三〇パーセントや二〇パーセントの項目があってもよい。ただ、もしゼロのものがあるならば、どれほど他のものができていても、指導者としての資格はない」と厳しいことを言っておられます。そして此の第一条件に続くものに松下さんは、熱意を持つということを挙げられています。それも、誰にも劣らぬ最高の熱意を持つということ、をです。
熱意を持つとは私自身は、『人物をつくる―真のリーダーに求められるもの』(拙著)で次のように述べておきました――そもそも、ただ何となくやりたいというような気持ちでは、物事を完遂することは絶対にできません。(中略)指導者が誰にも勝る熱意を持っているから、智恵を持った人物、才能を持った人物、技術を持った人物が、周りに集まってきます。(中略)そのようにして、事というものは、完遂することができるわけです。そしてまた、人間は、熱意があれば努力をします。「何としてもこれをやり遂げよう」と思えば、必死になって努力をします。熱意のあるところに努力が生まれてくるのです。そして、工夫も生まれ、やがて成功の智恵が見つかります。
松下さんや鈴木さんが言われるように、情熱というのは物凄く大事です。情熱なくして、人を説得することも引っ張ることも出来ません。指導者に限らずに、情熱から全てが始まるということをよく理解しておかねばなりません。世のため人のためになる様々なことを成し遂げようという志に、熱いパッションと強い意志を持って真摯に取り組むことで、道はひらけるのです。
正しい道に則らなければ物事は成功しないということを、稲盛和夫さんは「考え方×能力×熱意=人生・仕事の結果」という人生の方程式に表しました。考え方が間違っていると、能力や熱意が大きい程マイナスが大きくなってしまいます。だから誤った考え方の人は決して成功しない、と稲盛さんは言っておられるのです。志と野心は違います。志に情熱を注いでいるか、時に自らに問うてみることです。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2024年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。