あと数週間程度で今年も「新入社員様」が職場にやってきます。案外、戦々恐々としているのは職場の係長、課長クラスだったりします。「うちの課にも新入社員が来るのだろうか?」と。昔はフレッシュで獲れたて果実のようなイメージでしたが、今じゃ「扱い要注意」。理由は取り扱いを間違えたら覇気が無くなり、心療内科通いになり、挙句の果てに「私、辞めます」と言われ、人事部からは「君は一体どういう教育をしたのかね?」と叱責されるからです。
「お前が新入社員教育するなら昭和のど真ん中スタイルだからやめる奴もいるだろうけど、係長クラスならせいぜい30歳程度なんだから若手の気持ちはわかるだろう」という声もありそうですが、そんなことはありません。なぜかといえば会社経験6-7年にもなると会社色に染まるのです。一方、新入社員は色がないのでそのギャップが大きいのです。おまけにそれら新入社員君たちは家庭で社会人の心得を教えてもらったこともない人がほとんどです。ならば「これが社会人のルールだよ」といっても「私にはわかりませーん!」になります。
日経に「人手不足に悩まぬホテル」という記事があり、渋谷や川崎に非常に自由度が高く、ホテル業界のイメージを変える茶髪、ネイルOKだとか推し活ホテルといった特定分野に特化した会社は人の採用に困らないと報じています。この手の自由度は今や銀行やオフィスワーカーでもかなり自由度が大きくなっているので驚きはしません。私はこの記事はポイントを外していて、大事なのは職場環境が若手中心で判断実行までできるのかどうかに価値を感じているのだと思っています。
多くの昭和の視線は「かつての銀行員は7:3分けでスーツはきちんと着こなすことが信用の第一歩だったものが今では自由な服装になり変わったなぁ」なのですが、これは本質的ではないのです。若者は若者の世界を作りたいのです。ただそれだけ。それを具現化してくれる企業は案外超有名の名門企業ではなく、新興企業だったりするわけです。例えば学生には常時高い人気がある非上場の企業にPlan Do See Incというところがあります。聞いたことがない方も多いと思いますが、ホテルや婚礼、レストランの運営をしている会社です。学生人気企業ランクでは例年名前が出てくる会社です。ここは若い人が若い人目線で若い人のためにビジネスを展開していることで就職人気があるとみています。つまり会社の価値観と社員の価値観の共有ができるわけです。
では、名門企業の人事がここまですり寄らねばならないのか、という疑問はあるでしょう。ここは正直いうと過渡期なのだと思います。もうしばらくすれば平成世代が主流になり、平成VS令和の価値観のすり合わせになってきます。ただ、平成や令和でも数年単位で価値観は確実に変化してきていますので組織運営は非常にセンシティブなかじ取りを求められると思います。
昭和的な人事管理に曲がりなりにも同化できる人はトラディショナルな企業でも長く働けますが、自分の価値観を変えらえない人は新興企業で若者が活躍できる会社を選択する二者択一的な動きが生じることもあり得そうです。
こうなると一種の若者の哲学なのですが、確実に言えることは終身雇用の発想はまずありません。それどころか、たぶん5年が一つのサイクルではないかと思います。特に女性にあり得るパタンです。22歳で就職、27歳までまず一つの会社で頑張る、次にそこで自分を見直したりリセットする長期旅行や全く別の経験を1-2年積みます。そこで再就職を選んだ場合、案外長く専門職として仕事をする、だけど社内で昇格して偉くなるのではなく、ワークライフバランスをきちんと維持する、そんな感じです。この場合、女性のほうが様々な経験値を踏み上げているので一つの会社にしがみついている男性よりまし、ということもあるのです。
昔の価値観では結婚が途中の選択肢であるはずでは、と思われる方もいらっしゃるでしょう。案外私が目にしているのは同棲。つまり一応特定相手とお付き合いしている、です。ただし、面白いなぁと思うのは同棲は必ずしも結婚前提ではないのです。このあたりの発想は非常にドライだと思います。
この前もある就職期にある若者とやり取りしていて「僕、何をしたいか、どこに就職すべきかわかんないんですよー」と。でもそれは私も同じだったのでわかります。問題は会社に入ってから私は負けん気を起こした、だけど今は「嫌なら辞める」なのです。これは昭和的な「ど根性試練」が積みあがらないので比較的平坦な人生を探し続けなくてはならず、時間がたつと後悔に転じるのだろうと思います。とはいえ、私の価値観と最も違うのは「勝ち抜く」という強い意志を持った人が少なくなったことでしょう。これは日本の組織力などを維持するためには大きなハードルになるかもしれないと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月20日の記事より転載させていただきました。