失敗に挫折する人、1の失敗から10を学べる人

黒坂岳央です。

「成功は人を慢心にして目を曇らせ、失敗は人を成長させる」という言葉が好きだ。世の中で社会的に成功していると認知されている人たちは、総じて1の失敗から10も20も多くを学べるタイプだと思っている。一方で、一般的には失敗をとにかく忌避し、それでも失敗したらこの世の終わりが来たような落ち込み方をするケースは多いだろう。

どうすれば失敗から学びを得る人格を獲得できるのか? 自分自身の試みの中で得た気づきを言語化することに挑戦したい。

Olivier Le Moal/iStock

1. 仮説を持っている

失敗から多くの学びを得る人は、挑戦する前に自分なりの仮説を持っている。

筆者がセブンアンドアイグループで働いている頃、次のような話を聞かされた。

「セブンイレブンはランチに売れるサラダをお昼に入荷していた時期があった。できるだけ鮮度の良いものを入れるためだ。しかし、データ分析をするとサラダは朝によく売れる。ランチ時に出かけなくて済むよう、朝の出勤時に買っていく利用者が多いからだとわかった。以降はサラダは朝入荷するようになった」。

これには目からウロコが落ちる思いだった。この話にも「鮮度を考えると、ランチ用サラダは昼入荷する方が良いのでは?」という仮説がある。何も考えなければ昼時から朝に入荷の時間帯をズラすというそもそもの改善は起きなかっただろう。

仮説を持っているからこそ、施策が外れた、あたったという評価が入り真剣に改善を意識する。たとえうまくいかなくてもそれは「このやり方は有効ではない」という価値あるデータに変わるのだ。

2. 常に改善意識がある

仕事において「完成」はない。あらゆるオペレーションは永遠に工事中のサグラダファミリアみたいなものである。

筆者は日々、かなりの分量の文章を書いている。若い頃はタッチタイピングを取得したことで「これで自分の文章作成のプロセスは完成した」と考えていた。しかし、その後AI音声入力が発達し、認識精度が飛躍的に向上したことでまずは音声入力を行い、その後手入力をするというプロセスへ進化した。

だが、ここで終わらなかった。昨年から、ChatGPTを使い始めたのだ。これにより、原稿の方向性をAIと相談して作り、音声入力で書き、AIで誤字脱字や見出しを整え、キーボード入力で完成という流れができあがった。2023年からずっとこの流れで書くようにしている。おそらく、今後も新しいテクノロジーでさらなる進化が起きると思っている。

もちろん、最初からこうはいかず失敗の連続だった。音声入力もGoogleとAppleで認識精度も句読点の有無など質もクセもかなり違う。ChatGPTも使いこなせず、失敗ばかりで「これなら自分で書いたほうが早いな」とやきもきする時期もあった。今振り返ると試行錯誤していた時期の失敗は練習だったのだ。

3. 感情を排除する

失敗は感情と強く結びついている。多くの場合、失敗したとなると過度に悲観的になったり、怒り心頭で何も考えられなくなってしまうかどちらかだ。

だが、感情ほど人の目を曇らせ真実をわからなくするものはない。といっても悲しみや怒りは誰しも持っている感情なので、言葉で言うのは簡単でも「冷静になれ」と言われて「はい」とはならない。ではどうするか?

結論的には失敗慣れするのである。筆者も今は失敗をしても「データが取れるチャンス」と前向きに考えることができるようになったが、それには膨大な失敗を乗り越えて慣れてしまったからだ。

失敗に慣れればイチイチ落ち込んだり怒りを感じることはなくなる。その際、意識的に口に出したいのが「なるほど勉強になる」というものだ。自分も瞬間的に重い失敗をしたときは気持ちがぐらつきそうになるのだが、上記の台詞を口に出す。そうすると、脳はその言葉の整合性を取るための思考を再構築を始める。結果、「今自分は勉強をしており、この失敗は練習なのだ」という解釈に落ち着く。

他人から見ればバカバカしいと思うかもしれないが、人間は負の感情でダメになってしまうので半ば無理矢理にでも感情を排除できるなら、この取り組みには価値がある。

失敗が多いというのは恥ずべきことではなく、慣れていない新しいフロンティアに挑戦しているということなのでむしろ誇るべきことだ。実際、失敗数という絶対値でいえば、成功者は常人の2桁、いや3桁失敗しているだろう。むしろ、改めるべきは一切の失敗をしないよう、怖がっていつまでもコンフォートゾーンから抜け出さない姿勢ではないだろうか。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。