1. 現実個別消費の政府寄与分
前回は、家計の実際の消費となる現実個別消費について、実質値や実質成長率をご紹介しました。
日本は実質値でもやや低めの水準となります。
今回は、現実個別消費を構成している、家計最終消費支出と政府個別消費支出の寄与分について改めて確認したいと思います。
特に北欧諸国などは、政府による寄与が大きいのではないかと予想されますが、実際にはどうでしょうか?
まずは以前ご紹介した日本の状況を改めて眺めてみましょう。
図1は日本の現実個別消費の推移です。
現実個別消費 = 家計最終消費支出 + 対家計民間非営利団体最終消費支出 + 政府個別消費支出
大部分を占める家計最終消費支出(青)は停滞が続いていますが、政府個別消費支出(赤)は増加傾向で、現実個別消費全体としては1990年代以降も緩やかに増加が続いている事になります。
政府個別消費支出は、医療費の政府側負担分などのように家計の消費だけど、その一部または全部のお金は政府が支払うような支出ですね。
この政府の寄与分は、1980年代は15%程度でしたが、徐々に上昇して近年では20%程度となっているようです。
2. 現実個別消費の国際比較
続いて、現実個別消費の1人あたりのドル換算値にて、家計最終消費支出と政府個別消費支出の水準を国際比較してみましょう。
本来は購買力平価換算値で比較したいところなのですが、項目ごとの合計値が、現実個別消費の合計値と合わなくなるようなので、今回は内訳の整合性を重視して、為替レート換算値での比較とします。
図2は現実個別消費(1人あたり)の名目 為替レート換算値について2021年の比較です。
青が家計最終消費支出、赤が政府個別消費支出、緑が対家計民間非営利団体(NPISH)最終消費支出です。
当時の現実個別消費の水準では、日本はスイス、ルクセンブルク、アメリカに次いで先進国で4番目でした。
家計最終消費支出の水準も4番目であったことがわかります。
一方、政府最終消費支出を見ると、やはりデンマーク、ノルウェー、スウェーデンなどの北欧諸国の水準が高い事が確認できますね。
当時から北欧諸国では政府個別消費支出が多く、家計の消費に大きく寄与していた事が窺えます。
逆に、アメリカは政府個別消費支出がかなり少ないですね。
特にアメリカの場合、保健についての支出は政府が少なく、家計の支出が極端に多いという特徴があります。
図3が2021年の国際比較です。
日本はかなり順位が落ち、先進国でも下位グループとなっています。
家計最終消費支出の順位も変わりませんね。
政府個別消費支出も日本より順位の高い国の中では日本はアメリカを上回る程度ですので、現実個別消費の水準なりと言えそうです。
アメリカは順位の割に極端に家計最終消費支出が多く、政府個別消費支出が少ない特徴が確認できます。
逆に、ルクセンブルクや、ノルウェー、アイスランド、デンマーク、スウェーデンは、そもそも家計最終消費支出が多い事に加えて、政府個別消費支出の水準も大きいのが良くわかります。
さらに、1997年の状況よりも割合が大きくなっていそうです。
北欧諸国は高福祉高負担などとも言われていますが、まさに政府個別消費支出の存在感がそれを表していますね。
3. 政府個別消費支出の寄与
現実個別消費に対する政府個別消費支出の割合を確認していきましょう。
この割合が高いほど、政府としての消費に関する寄与が大きい事になり、福祉国家的な性格が強いと言えそうです。
また、高齢化が進む国ほどこの割合が高まりやすい傾向もあるかもしれませんね。
図4が主要先進国と韓国、スウェーデン、オランダの現実個別消費に対する政府個別消費支出の割合の推移をグラフ化したものです。
各国で大変興味深い傾向が見て取れますね。
なんといってもアメリカが10%未満で極端に低い水準が続いています。
スウェーデンは1990年代から25%を超える高水準が継続していて、好対照ですね。さらに少しずつですが上昇傾向でもあります。
オランダは2000年頃までは20%前後でフランス並みでしたが、その後急激に上昇して近年ではスウェーデンと同程度です。
オランダはパートタイム雇用率が高かったり、企業が黒字主体化して純金融負債が減っていたりと先進国の中でも特徴的な国です。(参考記事:日本はパートタイムが多い?、参考記事:西欧諸国の資金過不足)
イタリアは15%前後、カナダは17~20%で横ばいですが、その他の主要先進国はやや上昇傾向に見受けられます。
イギリスがリーマンショック以降変調していそうですね。
日本はやや上昇傾向が確認できますが、近年ではカナダやイギリスと同程度のようです。
韓国は上昇傾向が強いですね。
韓国は急激に少子高齢化の進む国でもあります。(参考記事:少子高齢化する先進国)
フランスは1980年代から20%近くで徐々に上昇していて、主要先進国の中でもかなり高い水準となっています。
主要先進国の中では、様々な指標でアメリカとフランスが対照的なのが興味深いですね。
再分配後の貧困率や雇用保護指標などでも立ち位置が対照的です。(参考記事:貧困率の高い日本、参考記事:日本は解雇しにくい国?)
図5が現実個別消費に対する政府個別消費支出の割合について、1997年(赤)と2021年(青)の国際比較です。
やはり北欧諸国やオランダ、ルクセンブルクが高い水準です。
ハンガリーとスロバキアを除いて、各国で割合が上昇している事も良くわかります。
アメリカはコロンビア、トルコ、メキシコに次いで割合が小さく、まさに「小さな政府」を体現しているような立ち位置です。
日本は高齢化が極端に進んでいる割には、OECDの平均値をわずかに上回るくらいで、先進国の中では中程度の立ち位置となります。
ただし、1997年からの伸び率は比較的大きいですね。
4. 政府個別消費支出の増大
今回は、現実個別消費の内訳についての国際比較をご紹介しました。
各国で現実個別消費が増える中、政府個別消費支出の割合も増加していて、政府による寄与が強まっている国が多いようです。
日本も政府個別消費支出の割合が高まってはいますが、現在のところ20%程度で、先進国の中では中程度の割合に留まります。
日本は最も高齢化の進んだ国ではありますが、この割合が適切なのかどうか議論もありそうです。
例えば、日本の家計の可処分所得は先進国の中でも低く、相対的貧困率は高い水準です。再分配の観点からすると、政府の寄与は十分ではない可能性もあるのではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか。
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。