これからの国土ビジョンを考える:破壊的な国土づくりという視点

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1.日本を代表する国土ビジョン『日本列島改造論』

2023年春に田中角栄の著書である『日本列島改造論 復刻版注1)が発売された。原著は1972年に発売され、91万部を超える大ベストセラーとなった書籍である。

52年が経過した現在の日本はどうなっているのだろうか。原著発売当時は人口ボーナス期真っ只中であったが、日本の総人口は、2008年にピークを迎え、現在は低下の一途を辿っている注2)。そして、2056年には総人口の1億人割れが予想されており注3)、少子高齢化や地方衰退が日本社会の課題となっている。

田中角栄は「増加」、「拡大」の時代を生きていたが、私たちは「減少」、「縮小」の時代を生きなければならない。したがって、前提条件が異なった現代、およびこれから創造すべき未来において、『日本列島改造論』の政策をそのまま現代に継承することは適切とは言えない。

しかし、根本にある日本国や日本国民全体のために国土を有効活用すべきという思想は時代を超えて普遍的であり、ビジョンが明確かつ具体的な戦略が簡潔にまとめられている点は現代の政治に欠けている求心力や実行力の強さといった点で見習うべきである。

2.整備新幹線計画の問題点

田中角栄は『日本列島改造論』の中で、日本全国を新幹線網で結ぶ構想を描いていた。2024年3月16日に北陸新幹線の金沢・敦賀間の約125kmが延伸開業したが、このような整備新幹線プロジェクトは「全国新幹線鉄道整備法」に基づく1973年の整備計画により実施されている。2031年以降の開業が予定されている北海道新幹線の新函館北斗・札幌間の延伸工事も50年前の整備計画に基づいて実行されている。

図1に、都道府県における1975年と2020年の人口増減状況を示す。この図は、昭和50年と令和2年の国勢調査のデータを用いて筆者が作成した。青色は人口増加、オレンジ色は人口減少、白色は大幅な人口増減なしを示している。

図1

図より、北海道、東北、四国、山陰、九州では人口が減少し、首都圏や愛知県、関西圏は人口が増加の傾向が確認できる。

次に、図2に、全国の新幹線鉄道網の現状注4)を示す。図より、先の図1において人口減少が著しい地域に基本計画路線が引かれていることが確認できる。

図2

整備計画が策定された高度経済成長期は先に述べた「増加」、「拡大」の時代であり、直ちに計画路線網が整備されていれば時代のニーズに合致し、地域の振興および日本国の発展に大きく寄与していたであろう。

しかし、プロジェクトの計画から着工、完成までの期間が長く、その間に人口動態の変化、激甚災害発生リスクの変化、物理的移動の価値変化、ライフスタイルの変化などが生じ、都市と地方の在り方自体が大きく変わってしまった。

インフラは必要な時に整備してこそフロー効果、ストック効果ともに最大限の効果を発揮する。計画から50年以上が経過し、前提条件が異なっている以上、戦後・高度経済成長期をベースとする国土構造を維持する流れから一度脱却し、これからの日本や日本に住む人の国づくりといった視点で新しい国土ビジョンを策定する必要性が高いと感じている。

北陸新幹線の敦賀延伸の光景を目にし、50年待ち望んだ新幹線開業は地域にとっての希望という側面も理解しているが、社会資本整備である以上、短期的な温情ではなく、長期的な経済効果で評価するべきである。

また、国土強靭化の観点から北陸新幹線が東京・大阪を結ぶことの価値は高く、敦賀・大阪間の整備を急ぐ必要があるようにも感じる。『日本列島改造論』における新幹線整備網では、地方と都市の格差解消が主目的であったが、現代における北陸新幹線の役割は東京・大阪間のリダンダンシー機能強化という意味合いも強い。

3.持続的な国土づくりと破壊的な国土づくりという考え方

ここで、国土づくりを、持続的な考え方に基づく国土づくり(以下、持続的な国土づくり)と破壊的な考え方に基づく国土づくり(以下、破壊的な国土づくり)の2つに分けて定義する。

持続的な国土づくりとは、いわゆる戦後から今日までの国土づくりにみられるような再開発・改良により価値向上を図る国土づくりである。一方、破壊的な国土づくりは、既存の国土からの連続性は持たず、何もない場所に0から理想の国土を描く国土づくりである。

どちらも、国土の創造ではあるが、整備新幹線計画にみられるように今日の日本は持続的な国土づくりに重きが置かれているように感じる。スマートシティ等注5)、街レベルの破壊的な国土づくりは増えてきているが、国土全体でみるとほんの一部にしか過ぎず、既存の価値観の延長の国土づくりが大部分を占めている。

これからの国土ビジョンを考える上で、人口減少社会、ライフスタイルの変化、AI・ロボット技術、センシング技術、5G、新エネルギー・発電等の科学技術の飛躍的な進歩を考慮する必要がある。国土を基盤として、様々な分野の最先端技術が実装され、多様な価値観を包括することが求められる現代社会では、国土づくりにおいても大きな変革期であり、破壊的イノベーション注6)を起こす時期と言えるのではないか。

4.まとめ

本論文では、『日本列島改造論』と北陸新幹線の敦賀延伸からこれからの国土ビジョンの在り方を考えた。

前提条件の変化に影響を受けないであろう日本や日本人が育んできた歴史や文化の本質は守り続けるべきであるが、成熟社会だからこそ、既存の延長という思考を一度やめ、破壊的な国土づくりを考えてはどうか。その際、『日本列島改造論』に盛り込まれたエッセンスを取り入れるとともに、ビジョンとしての求心力や実行力を倣いたい。

【参考文献】

注1)田中角栄:『日本列島改造論 復刻版』,日刊工業新聞社,2023.3
注2)総務省統計局:人口の推移と将来予測,(参照日2024-04-16)
注3)国立社会保障・人口問題研究所:日本の将来推計人口(令和5年推計),(参照日2024-04-16)
注4)国土交通省:全国の新幹線鉄道網の現状,(参照日2024-04-18)
注5)TOYOTA WOVEN CITY:(参照日:2024-04-16)
注6)クレイトン・クリステンセン:イノベーションのジレンマ,2001.