我々にテレパシーの能力が本当に必要だろうか?

テクノロジーの加速度的進化については目を見張るものがあります。その一方で人間は太古から極めてゆっくりとしか変化しておらず、テクノロジーと人間の成長度のギャップが尋常ではないほど大きくなると人間はその技術にどう価値を見出すのかばらつきが出てくると考えています。

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例えば電卓は人々を計算の悪夢から解放しました。タイプライターは下手な字を書かなくてよくなりました。コンピューターは記憶が悪い我々の知識や能力を助ける外部記憶装置兼演算機能になりました。かつてウォークマンが売り出されたとき、音楽を持ち歩けると大変な話題になりました。スマホが出た時、コンピューターを持ち歩けるといった人はあまり覚えがないのですが、発想は全く同じです。

この辺りまでは人間が持つ能力をより効率的にするための技術のアシストと考えてよいかと思います。では生成AIはどうでしょうか?企業ベースではじわじわとその使用が進んでいます。が、個人が生成AIを直接使って何かをすることは思ったほどないのではないかと思います。私自身、パソコンにAI機能は装着されていますが、現状、使うことはほとんどありません。価値観が私にはまだピンと来ないからでしょう。多くの皆さんもそうだと思います。巷で生成AIといっているけれどそれってどこに隠されているのって。

宇宙開発もそう。人工衛星は低軌道と高軌道の二種類があり、静止衛星などの高軌道でも地上36000キロ程度です。月や火星に飛ぶ宇宙船もありますが、人間社会に役立つのはまだまだ地球の外殻エリアに留まっています。かつて火星移住計画というSFチックな話もありましたが、人間がそれを真剣に価値あるものと考えるには1000年でも足りないのかもしれません。覚えている方もいるかもしれませんが、かつて日本にはシルバーコロンビア計画という壮大な名前の宇宙とは全く関係ない老人輸出計画がありましたが、大失敗に終わっています。そう、人間はそんなに思ったようには動かないわけです。

そんな中、最近話題になっているのがブレインテックと称される分野です。脳神経科学とテクノロジーを融合したものであります。この技術がここにきて急速に進化した理由は半導体の飛躍的成長、2つ目に脳の信号処理能力や深層学習の進歩、3つ目が脳科学の進化とされます。半導体の成長は小型化と高性能化がキーポイントですが、あくまでも高性能のハードウェアなのです。

脳は信号、これが重要です。私は門外漢ですのでそれを説明しているウェブを見ると「脳が働くときには、神経細胞の樹状突起から細胞体をへて、軸索を通り、次の樹状突起へと電気信号が流れます。 このようにして電気信号が神経細胞ネットワーク上を流れていき、情報が伝えられる仕組みになっています」(日本学術会議)と解説されています。その信号を人間の作るディバイスを経由させれば考えていることを外部装置に移行することができるという原理でしょうか?

そしてこういう技術にすぐ飛びつくのがイーロンマスク氏で彼はニューラリンク社を立ち上げ、治験を始めています。また、同社とともに先行するシンクロン社はすでに小規模の治験を実施済みで次の段階として数十人規模の治験を行う募集を開始と日経が報じています。

この話、すごいのですが、難関はあります。まず、ディバイスを埋め込むのは脳の中。つまり頭を手術しなくてはいけません。頭蓋骨の中ですから。問題は装置ですので永久不変ではないのです。あるいは壊れたらどうするのか、という問題もあります。その度に脳の手術をするのは面倒だから頭の中に開閉式のハッチでも作るのでしょうか?こうなるともはやロボットの世界で人間の話をしているとは思えなのです。

ではマスク氏が語る「最初のプロダクト名はテレパシーだ」は本当に人間社会に必要なのか、と言われたら私はわからないのです。思っただけで物体を動かせるというテレパシー技術は90年代初頭には実証されています。つまりそんなに新しい技術ではないのですが、それを具体化させるのに30年以上かかっているということです。それは上述の3つの技術の発展があったからこそなのですが、人間社会においてテクノロジーだけが独善的に進化しているように思えるのです。

人間はもっとアナログ的で深みがある難解な問題をたくさん抱えています。社会の動乱や戦争、政治や体制、歪みやストレスや精神障害、人間関係やコミュニケーションの欠如などテクノロジーとは無縁の世界だけど人類の歴史でほとんど進化していない問題に常に直面しているのです。これを思うと「テレパシーもいいけど、もっと身近な問題はどうするのだろう」と思ってしまうのです。

もちろん、私はアンチテクノロジーではありません。むしろウェルカムなのですが、テクノロジーの進化とともに人間そのものが退化していないか、という気もするのです。つまり、外部装置に依存することで人間が本来持ち合わせている能力を使い切っていないという感じです。例えは悪いですが、我々には十分な記憶装置の容量が残っているのにクラウドのメモリーを使うため、それを引っ張り出さないと自分で何もできない人になっているのです。例えばあなたは家族の人の携帯番号を頭の中で覚えていますか?90%の人は覚えていないでしょう。それならば何もない脳みそからテレパシーってなんか不思議だよね、と技術がわからないおっさんがつぶやいているということであります。

失礼しました。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月21日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。