「お金以外」の仕事の対価

黒坂岳央です。

「仕事の主目的はお金を頂くこと」これは疑いようもない事実だろう。どんなにきれいごとをいっても、お金がなければ人は生きていくことができない。

しかし、仕事に求める対価が「お金だけ」でも続けることは難しい。マズローの欲求段階説で証明されている通り、人が幸せになるには自己実現欲求にたどり着く必要がある。しかし、お金だけでは承認欲求の壁を本質的な意味合いで超えることができないのだ。

実はお金以外の仕事の対価にこそ、人生を充実させてくれるものがあると思っている。

Chinnapong/iStock

1.スキルや知識

お金以外の仕事の対価の1つ目は、スキルや知識だ。

人間は学ぶ動物である。母親のお腹の中にいる段階から、音を通じて外界からの情報や刺激を積極的に獲得しに行くし、何歳からでも人間は学んで賢くなることができる(ただし、学び方を間違えないことが重要だ)。

できなかったことができるようになる、知らなかったことや知りたかったことを学ぶ、これは誰にとっても心ときめく楽しいことである。世の中には様々な手段で知識技術が提供されているが、仕事を通じてでなければ身につかないものは少なくない。

たとえば人前でわかりやすく論理的、かつ退屈しないように話すには受け身で学ぶのではなく、数多くの場数を踏む必要がある。自分の場合、この取得に仕事での実践を通じて3年以上の期間を要した。ただ本で学ぶだけでは絶対に今の水準に到達していないと言い切れる。つまり、仕事がスキルや知識を授けてくれたと言える。これが自分自身のビジネスマンとしてのアイデンティティになり、そして自信になっている。

2.優れた人間関係

2つ目に人間関係である。仕事以外では決して交わることのない人を仕事は連れてきてくれる。

会社勤務をしたり、フリーでも経営者でもプロジェクトで人が集合すると、そこには日常生活では交わることのない相手と知り合うことになる。そしてその人間関係から、人は大いに刺激を受けてその後の人生を豊かにしてくれるのだ。

筆者が会社員の頃、東大卒、海外MBAホルダーの優秀なキャリアビジネスマンと一緒に仕事をした。それまでの人生はいわゆる「ハイスペックな人材」とコミュニケーションを取る機会がなかった。彼らの仕事っぷりを間近に見て「本当に優秀な人というのは、その優れた頭脳が仕事にしっかり出るものなのだな」と感じる事が多かった。彼らから仕事の技術や向き合い方の姿勢など様々なものを学ばせてもらった。

3.承認欲求の処理

3つ目は承認欲求の処理である。良くも悪くも人間には「承認欲求」が備わっている。

これを上手に活用することで、社会の役に立つ仕事を目指したり、人から感謝されるような人物であろうと考え、それが社会全体でメリットをもたらす。その一方、世間一般的な認識であまり好ましいとされない職業についている人ほど、この承認欲求をお金の力で無理に満たそうとしがちだ。自分を高く見せるために、見栄の散財や高級ブランドで着飾って、それを見て周囲からますます敬遠されるという悪循環を生み出す。

人間は生きている限り、承認欲求とはずっと付き合っていく必要がある。その最も健全で確実な処理の方法は「いい仕事をすること」だ。いい仕事をすれば、人から感謝される。「ありがとう」「助かりました」といってもらえば、誰にも眉をひそめられることなく承認欲求が満たされる。それで自信をつければ、ますますいい仕事を頑張る励みになり、それがビジネスマン本人の社会的価値を高めるリターンをもたらす。仕事以外の代替手段はおそらく、ボランティアくらいなものだろう。

「もう一生分稼いだのでは?」と思われる大物がずっと働き続けるのは、自己実現欲求によるものもあるが、一方で承認欲求を満たすためでもあると思っている。

仕事の価値はお金だけではない。贅沢はすぐに飽きるが、仕事が連れて来るお金以外の価値に対してはどれだけ受け取っても飽きない。知識や技術が洗練され、いい人間をもたらし、人から感謝されることはいつまでも楽しめるのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。