労働時間を変えずに1.5倍の成果を出す、うまい手の抜き方(滝川 徹)

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与えられた仕事は全てきっちりこなさなければいけない。そう考える人も多いだろう。しかし短い時間で効果的に働きたいなら、価値を生まない8割の仕事にかける労力・エネルギーは極限まで削ぎ落とすべきだ。

そう語るのは現役会社員・時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、「80対20の法則」の実践的な活用法ついて、再構成してお届けします。

80対20の法則とは

君は「80対20の法則(パレートの法則とも呼ばれる)」を知っているだろうか? 世界的なベストセラーとなったグレッグ・マキューン著『エッセンシャル思考』(かんき出版)の影響で、この法則を知った人も多いかもしれない。しかし実際にビジネスの現場でこれを意識して実践している人となると話は別だ。その数はとたんに少なくなる。

この法則はざっくりいうと「2割の要素が全体の8割を生み出している」とする考え方で、ビジネスで言えば「仕事における成果の8割は、2割の業務から生み出されている」となる。逆に言えば、8割の仕事は2割の成果しか生み出していない。なんということだ。この法則に則れば、大半の仕事は価値を生み出さない生産性のない仕事ということになる。

この考え方の根拠についてはリチャード・コッチ著『増補リニューアル版 人生を変える80対20の法則』(CCCメディアハウス)にくわしく書かれているのでここでは割愛するが、この法則を実践するかしないかで仕事の生産性は全く異なったものとなってくる。

この法則を活用する人は常に成果の8割を生み出す2割の仕事に注力し、それ以外の仕事は極端に言えば切り捨てている。理由は単純。同じ1時間にしても、大きな成果を生む“2割の仕事”に時間を使ったほうが自分にとっても会社にとっても有益だからだ。

同じ時間で1.5倍の成果を出せる

ものすごく単純な例でこのことを説明してみよう。図1を見てほしい。

図1

左側のように、10の成果をもたらす仕事と100の成果をもたらす仕事がそれぞれ3つずつあるとする。いずれもふつうに取り組めば、60分(1時間)かかるとする。成果という視点で見ると、この場合6時間かけた結果は330となる。

一方、80対20の法則を活用する人は右側のような働き方をする。成果10の仕事は可能な限り労力をそぎ落として、それぞれ20分で終わらせるのだ。そうすることで120分(40分×3)の時間を創出し、その時間を使って成果100の仕事をさらに2つこなす。そうすると同じ6時間で530の成果を生み出すことができるわけだ。

考え方を示すために極端な例で説明したが、イメージはつかんでもらえたのではないだろうか。このように80対20の法則を活用する人は成果の低い8割の仕事にかける時間とエネルギーをできるだけ減らし、自分のリソースをより価値を生む2割の仕事に注力しているのだ。

全ての仕事を完璧にこなすことをあきらめよう

「考え方はわかった。だが、たとえあまり価値を生み出さないとしても仕事で手を抜くことに抵抗がある」。そういう人もいるだろう。気持ちはわかる。誤解しないでほしいのだが、私は仕事を丁寧に行うことを否定しているわけじゃない。これは仕事の生産性を高めて効率良く進めるために「何を優先するか?」という話なのだ。

限られた時間で最大の成果をあげたいと考えるなら、全ての仕事を完璧にこなすことをあきらめなければならない。これがリスクとスピードはトレードオフであるということだ。生産性が悪い仕事を捨てる勇気が必要になる。

つまるところ、80対20の法則が実践されない理由もここにある。けっきょくみんな捨てる勇気がもてないのだ。全ての仕事をきちんとこなして、かつ、生産性高く働きたいと思っている(昔の私も当然そうだった)。

はっきり言おう。それは無理だ! 全てを手に入れようとする人は、結局何も手にすることができない。「仕事をきちんとこなす、かつ、生産性高く働く」を目指す人は例外なく長時間労働に陥る。そもそも現在の業務に時間的にも心理的にも余裕がある人は本書を手にとっていないだろう。本書を読んでくれている方は、自分の仕事の進め方を改善したいと思っている人だ。ならば断言する。君の考え方を変えることこそ、スタートラインである。

さて、ここまでくれば80対20の法則を活用して仕事をしたほうがいいことは君もわかってきたと思う。では具体的にどうやって重要な2割の仕事を見極めるのか。説明しよう。

2割の重要な仕事の見極め方

たとえば君が営業の仕事をしているなら話は簡単だ。売上の8割を生み出している“2割の顧客”を特定すればよい。営業職なら売上の実績を見るまでもなく明白だろう。だが、簡単に特定できない仕事の場合はどうすればよいか。

その場合は上司から評価された過去の仕事のことを思い出そう。人事評価制度があれば、それを活用できる。そこではどんなことが評価されていただろうか。評価制度がない場合、仕事の成果の8割は2割の仕事が生み出しているという前提で上司からのフィードバックを思い返してみよう。「本当に、この仕事はよくやってくれた」と労われるような仕事は数えるほどしかないはずだ。このことに気がつくことが出発点になる。

2割の重要な仕事が特定できたら次は生産性の高くない残りの8割の仕事にかける時間と労力を最小限に抑えるよう意識しよう。繰り返すが、ここがミソだ。たとえば君が主動の「勉強会を開催する」というタスクがあるとする。もしこのタスクが重要な2割に該当しない場合、いかに時間と労力をかけずにこの勉強会の用件を満たすことができるか。考えるのだ。

やみくもにパワーポイントで資料作りをはじめてはいけない。「労力をかけない」という視点で考えれば、ワードにポイントを箇条書きにした資料でもよいだろう。パワポで資料作りに慣れている人には勇気がいるかもしれない。でも試す価値はある。

もし万が一「なぜきちんとした資料じゃないのか」という批判を浴びたとしても(そんなことが起こりうるとはとても思えない)、ワードに書いた要点で事足りているし、そもそもそのタスクは価値を生まない8割の仕事だ。よってダメージは少ない。

何度も言うが、全てを手に入れることはできない。生産性高く働きたいなら価値を生まない8割の仕事にかける時間と労力をいかに減らすことができるか。これがカギとなる。これには知恵と勇気が試される。健闘を祈る。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月13日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。