敢えて経済的弱者を目指す「選択的住民税非課税世帯戦略」

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慶應医学部を中退して、外資系投資銀行モルガンスタンレーで仕事をしていた「エリート女子」が、23歳でサイドFIREを目指しながら千葉の勝浦に育休移住。それを紹介しているこちらの記事が話題になっています。

仕事をバリバリやって収入を増やし、経済的強者になれるポジションにいたにも関わらず、敢えて「経済的弱者」を目指す人生戦略を選択したのは、自分の自由な時間を犠牲にして努力して働いても幸せは得られないと感じたからだと語っています。

自ら意図的に収入を減らすことで住民税のかからない世帯になる。それによって、税金の負担が無くなるだけではなく、社会保険料の負担も無くなります。さらに、子供の教育費の無償化の範囲も広がっていくのです。

子供との時間を削って懸命に働くと所得制限にかかってしまい、子育て・教育支援の給付金の支給対象外になってしまう。収入が増えると子供の進学の機会を奪ってしまうというパラドックスが存在するのです。

その代わり、収入は働いて得るのではなく「やどかり投資」と呼ばれる不動産収入によって補う。

非課税レベルの不労所得を得て、給付金をフル活用しながらサイドFIREという合理的な人生戦略です。

労働による収入が多ければ多いほど、その中から税金だけではなく社会保険料という「隠れ税金」が吸い上げられ、高齢者の医療費として使われています。

このカラクリが見えた頭の良い人ほど、真面目に働くよりも収入を減らして敢えて住民税非課税世帯になる方が豊かに暮らせることに気が付き始めたのです。

これはこのような小賢しい選択をしている人たちが責められるべき問題ではなく、日本社会の制度の問題だと思います。日本人の「人生ゲーム」のルールにバグがあるからです。苦労して労働しない方がメリットがあるのであれば、ほとんどの人は苦労しようとは思わなくなります。

敢えて収入を増やさないように働かないライフスタイルを模倣する若者が増えれば、「真面目に働くのは恰好悪い」という風潮が広がって、せっかく能力や実力がある人たちが労働市場から撤退していくことになります。

今の日本に一番必要なことは、リスクを取った人、働いて成果を出した人が、正当に経済的に報われる仕組みを作ることではないでしょうか?

能力のある若者が経済的弱者というフリーライダーを目指す世の中は間違っていると思います。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。