政策はこうやって繋がっていくのか
5月15日衆議院法務委員会稲田朋美議員の脱退一時金に関する質疑
令和6年5月15日の衆議院法務委員会において自由民主党の稲田朋美議員が脱退一時金に関する質疑を行いました。
脱退一時金については以下で整理していますが、簡単に言うと「無年金若しくは低年金状態の外国人等が発生して生活保護受給に流れてしまう土壌が作られてしまっており、究極的には自治体の財源不足問題に発展する」という問題です。
また、稲田議員も昨年国会の質疑で触れています。
「永住資格の取消事由に年金不払いも 永住者の脱退一時金はこれと矛盾」
稲田朋美議員の岸田総理大臣への質疑と答弁の内、脱退一時金に関係する箇所を書き起こしました。
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稲田朋美 はい、ありがとうございます。今までどちらかというと安価な労働力というふうに考えられていた技能実習生制度を抜本的に改革すると、そして、外国の方にとっても選ばれる国、そして日本人にとっても労働環境がより良いものになっていく、そういったことが求められているというふうに思います。法務委員会に来られた参考人の中には、日本は有数の労働移民受け入れ国になっていると、そして、こういった傾向が強まるというような発言もございました。人手不足という観点から外国人労働者の数を増やしていくとすれば、また欧米のような問題が生じてくると思います。今回の入管法の改正で永住外国人の在住資格の取消し事由、これを明確化する、また、故意に公租公課を支払わないこと、これ22条の4、8号ですけれども、これが取り消すことができる事由として追加されます。私は、これは適正な改正だと評価を致しております。その趣旨から致しますと、永住外国人は日本に永住することが前提ですから、年金を解約して母国に帰るということを前提とした一時金が取得できる外国人の脱退一時金制度とは矛盾をすると思います。今回のこの公租公課の中にももちろん年金は含まれるわけでございます。年金を日本人は途中では解約はできません。その日本人との公平、それから在住外国人の無年金を防ぐという意味から、永住資格を維持する外国人の方々には、脱退一時金の対象外とすべきだというふうに思いますが、この点を含め、今回の年金制度改革において、年金一時金制度の検討状況を総理にお伺いいたします。
岸田内閣総理大臣 まず、滞在期間が短い外国人の場合はこの年金保険料の納付が老齢給付に結び付きにくいという特有の事情を踏まえて、一定の要件を充たした場合には、脱退一時金の受給が可能となっています。その一方で、長期間日本に滞在することが見込まれる方については、委員ご指摘の通り、将来の年金受給権を確保するという観点も重要であると考えます。本年3月に厚生労働省の社会保障審議会年金部会において、脱退一時金に関する議論、これを開始いたしましたが、その中で、年金部会の中では、日本に生活基盤を持つと考えられる永住者資格の方について、脱退一時金の支給を制限していく方向性は賛成、という意見があった一方で、現行制度において永住者は海外在住期間が合算対象期間として老齢年金の受給資格期間にカウントされることから、脱退一時金を受給するケースはそもそも限定的であり必ずしも改正の必要はない、こういった意見もあったと承知をしております。引き続き、この次期年金制度改正に向けて必要な検討は続けていきたいと考えております。
稲田朋美 ありがとうございます。この問題は昨年の臨時国会冒頭の私の代表質問でも指摘し、また、総理がおっしゃったように、いま年金部会でも検討されていて、おっしゃいましたように、日本に生活基盤を持っておられる永住資格の方に支給を制限していく方向、また、再入国が予定される場合には永住者は脱退一時金を請求できなくするのではないかといった意見も出されています。いま総理もですね、そもそも限定的だとおっしゃるのであればですね、やっぱり対象外にすべきだと私は思います。今回永住資格取消しの故意による年金不払いも含まれるわけですから、無年金の原因になる年金の解約は永住資格の人には適用しないというのが一貫した考えだと思うことを申し上げたいと思います。本日はどうもありがとうございます。
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入管法改正で永住外国人の在住資格の取消事由明確化、故意の公租公課不払いが追加
話の前提として、【出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案:参議院】に触れます。
現行の入管法22条2項に「公租公課の支払等」を義務に加え、22条の4に加える形で「故意に公租公課の支払をしないこと」という取消し事由が加わり、それ以外にも一定の罪を犯して拘禁刑に処せられた者も明示的に取消し事由となるとあります。
今国会で成立が見込まれている法案です。
脱退一時金の請求が無かった場合に関係する老齢基礎年金にも公租公課が賦課されることについては【年金制度の仕組みと考え方_第3_公的年金制度の体系(年金給付)】を参照。
厚生労働省社会保障審議会年金部会での議論「日本に戻る前提の永住者が脱退一時金は違和感」
岸田総理の答弁にあった3月の厚生労働省の社会保障審議会年金部会での議論というのは、以下の小林洋一委員が指摘するようなものです。
○小林委員 ~省略~
次に、議題2の脱退一時金についてです。
日本での永住をやめて母国に帰国されるということであれば理解できますが、永住権を保持した人なら、日本に戻ることを前提に国外に出るということでしょうから、そのときに脱退一時金を受け取ることができる仕組みには違和感があります。仮に何らかの事情で日本に戻れなくなったときのことを考慮しての制度ということであるのなら、申請、給付の手続等に関する技術的な問題はあると思いますが、脱退一時金相当額の受領の権利を確保するという形の制度にすることも一つの方法ではないかと思います。こうした権利留保の形にすれば、一時金の受け取りによって加入期間がリセットされてしまうという問題も多少は解消できるのではないかと思います。
以上です。
他、脱退一時金に関しては過去には第3社会保障審議会年金部会にて駒村康平委員から指摘があったことも触れておきます。
「脱退一時金を受給するケースはそもそも限定的であり必ずしも改正の必要はない」という岸田総理が紹介したような発言もありましたが、稲田議員が「限定的だとおっしゃるのであれば対象外にすべき」と指摘したように、合理性に欠ける話だと思います。
上掲のグラフを見れば、永住者の数は右肩上がりで増えているのが分かります。
で、この永住者の中で脱退一時金を請求したことがあるのかどうかは過去の分はトレースできていません。ですから、実態把握ができていません。今後はマイナンバーで紐づけできると思われますが。
もしも大量のケースがあったらどうするのか?民間では脱退一時金の請求を促すブローカーがHP等に解説まで掲載しているのですから、その可能性を低く見積もることは不合理ではでしょうか?
しかも、現在永住資格を有する者の中には将来的に日本国籍を取得、つまりは帰化をする者も相当数居ると考えられますが、そうした人は「外国人統計」には現れてきません。その中で「無年金状態」の者が出てきてしまったら生活保護一直線で、地方財政を圧迫します。
今後は永住資格の資格審査において、過去に脱退一時金の請求・支給を受けたことがあるかを加味して将来の年金状況を考慮に入れるべきでは?といった事も言えると思います。
永住許可を受けた在留外国人の生活保護受給者数増加の懸念と地方財政圧迫の問題
外国人の脱退一時金の問題は、究極には地方財政圧迫の問題として把握されるものです。この流れでは、永住資格を受けている者・受けようとしている者の生活保護受給者の数が問題になります。
今般の入管法改正案では「故意に公租公課を支払わない永住者」が永住資格取消しの対象ですが、これでは「故意とまでは言えないが支払えない状況になる永住者」は対象外です。個人の家計状況に関して「故意」とまで認定できるでしょうか?そういうケースも多いと考えられます。
そうなると、生活保護に流れていきますが、これは外国人に対する生活保護制度の本来の趣旨からは外れています。元々は特別永住外国人に対する制度だったはずです。
地方財政の問題として考えれば、この点は避けては通れないでしょう。
今後はこのあたりが明らかにされていって欲しいと感じています。
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。