イラン大統領のヘリコプター墜落事故の影響

イランのライシ大統領とアブドラヒアン外相ほか政府高官が乗ったヘリコプターがアゼルバイジャンのダム竣工式式典の帰りにイランで墜落したとの報道が入ってきました。本件、入手した最新の情報をベースに状況把握と分析をしたいと思います。

ライシ大統領 IRNA国営通信より

当時は3機のヘリで飛行しており、大統領らが乗ったヘリだけが墜落しており、他の2機は無事に着陸したとあります。中東のアルジャジーラの報道を見る限り、ヘリはhard landingしたとあり、周辺国が捜索協力を申し出ているとされます。ただ、私が見る限り他の2機が一緒に飛んでいるとすれば相当悪天候だったとされますが、一部の報道では墜落場所の特定は既にできており、レスキューチームがロシアを含め、現地に向かっていると報じられています。現時点では極論の報道をする前に国内の混乱を避けるため、クッションを置いているという気がします。

事実、カナダの高級紙グローブアンドメールは既にThe possible death of Iranian President Ebrahim Raisiと銘打った記事をあげており、最悪の事態を想起するものになっています。

写真の分析からライシ大統領が搭乗していたヘリはアメリカのBell212型ヘリではないかとされ、そうだとすれば1979年のイラン革命以前に購入したものではないかとみられています。そんな古いヘリに大統領が本当に乗っていたのかという疑問がありますが、その報道が正しいとすれば、アメリカの経済制裁によりヘリの部品が購入できずメンテナンスに何らかの問題があった可能性もあります。

また、今回の墜落については「事故」と報じられ、現段階では「事件」とみる向きはありませんが、イスラエルとの問題を抱える中で諜報筋が様々な背後調査をしているものと察します。

さて、ライシ大統領に不測の事態が生じた場合、イランにどのような問題が生じるのでしょうか?まず、イランの重要な国家案件の判断はハメネイ師が握っており、ライシ師は実質的にNo2であり、行政のトップであります。両者とも「師」とつくのはイスラム教シーア派の聖職者である証であります。ハメネイ師は84歳と高齢にあるため、63歳のライシ師がその後を継ぐ最有力候補とめされています。ライシ大統領の政策も敬虔なシーア派として西側諸国に対して断固で毅然とした態度を貫いてきました。よってライシ大統領の不測の事態はイランの短中期的な国政に極めて重大な影響を与えることが予想されます。

イランと同盟や友好関係を結ぶ国家との連携関係が今回の事故で変化することはないとみていますが、イスラエルとの攻防については精神的に一歩後退した感じになるとともに周辺国や過激活動家にイランのグリップが効かない状態になれば地政学的不和が増長される可能性は否定できないと思います。

ライシ師が執務できない状態であれば第一副大統領のモハンマド モクベル氏が大統領代行となりますが、いずれ正式な大統領を選ぶプロセスを踏むにしてもそう簡単ではないともされます。イランも一枚岩ではなく、今回のヘリの墜落事故が伝えられたテヘランでは一部では「お祝い」や「花火の打ち上げ」もあったとされ、国内世論の力関係や影響も気になるところです。

日本からは遠い話で大統領が乗ったヘリが墜落したという事実以上の報道は簡略化された内容になるかと思いますが、緊迫する中東情勢を考えるとこの突然のゲームチェンジャーがどのように中東情勢を変化させるのか、極めて慎重に分析する必要が出てくるでしょう。厳格な性格だったライシ師を支えたのはハメネイ師であります。21年6月の大統領選挙の時は投票率が48%台と前回の70%台を大きく下回り、出来レースだったともされています。よってハメネイ師路線に忠実だったライシ師という流れを既存体質とすれば、次の大統領選で再び厳格でハメネイ師のポリシーを継ぐ大統領の選出が国内で平和的かつ「民主的」に行われるのか、これまたひと悶着あるでしょう。

ライシ師が不測の事態に陥った場合を前提に本ブログを起こしていますが、もちろん、ライシ師が無事であることを祈っております。ただ状況はかなり厳しいのではないかと推測しております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月20日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。