中露首脳会談で保留された3つの問題

ロシアのプーチン大統領は16日から2日間の日程で中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談をし、中露両国の関係強化などをうたった共同声明に署名するなど、それなりの成果を挙げてモスクワに帰国した。プーチン氏にとって通算5期目の最初の外遊地に中国を選んだのは、中国との関係がロシアにとって不可欠の関係となってきたからだ。

会談後、共同声明に署名したプーチン大統領と習近平国家主席(2024年5月16日、北京で、クレムリン公式サイトから)

ところで、モスクワから流れてくる情報によると、プーチン大統領と習近平国家主席との首脳会談では未解決問題として残された3つのテーマがあるという。以下、その3点を紹介しながら、「永遠の兄弟」と謳った両国関係の舞台裏をちょっと覗いてみた。

①中国とロシア両国間の貿易は活発な動きを見せている。その主因はロシアが2022年2月、ウクライナに軍事侵攻して以来、欧米諸国からの経済制裁を受け、必要な先端機材を欧州から輸入できなくなったため、中国から密かに輸入する一方、天然ガスや原油の地下資源を欧州諸国から中国に移動して、輸出してきたからだ。ロイター通信は今年1月、「中国税関総署が公表した統計によると、2023年の中国とロシアの貿易総額は過去最高の2400億ドルだった」と報じている。

問題は中国側から出てきた。貿易決算をどのようにするか、どの銀行が両国貿易の決算の窓口となるかだ。中国の大手銀行はロシアとの貿易決算が明らかになると、米国や欧州諸国から制裁され、国際取引から追放される危険性が出てくることから、躊躇しているといわれているのだ。

中国側の不安はロシアと北朝鮮との貿易取引でも表面化している問題だ。米国情報当局者らによると、ロシアは、ロシアの金融機関に預けられている北朝鮮の凍結資産3000万ドルのうち900万ドルの放出を許可しただけではなく、北朝鮮がロシアの地方銀行に口座を開くことを承認するなど、金融分野でも北側を支援している。その結果、北側はロシア国内で開いた銀行口座を利用して貿易取引が可能となる道が開かれた、というのだ。果たして、中国の大手銀行が欧米の制裁の危険を冒してまで、中露貿易の取引に関与するかは不明だ(「中国『金正恩氏のロシアへの傾斜』懸念」2024年3月26日参考)。

中国「金正恩氏のロシアへの傾斜」懸念
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②スイスで来月15日~16日、ウクライナ戦争の平和的解決を目指す「ウクライナ和平サミット」が開催される予定だ。スイスの和平サミット会議の開催案は、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、ウクライナのゼレンスキー大統領が要請したことがきっかけで、スイスとウクライナが共同発表した。

問題は参加国だ。特に、ロシアのウクライナ侵攻で中立的な立場を取っている有力国をサミット会議に引っ張りだすことだ。第一は中国だ。そしてインド、南アフリカ、サウジアラビア、ブラジルなど「グローバル・サウス」が続く。ロシアが参加するのは非現実的だが、中国の参加は現時点ではまだ流動的だ。

中国はこれまで正式には欠席も参加も表明していない。プーチン氏としては訪中で習近平主席から「スイスのサミット会議には参加しない」という言質を取りたかったはずだが、ロシアと中国のメディアから判断すると、成功しなかったようだ。

③プーチン大統領は中国に天然ガスや原油をもっと輸入してほしい。そのために「第2のパイプライン建設」を北京側に打診してきたが、これまでのところ北京からはいい返事が来ない。中国側は「ロシアの地下資源をこれ以上輸入すれば、エネルギーをロシアに依存することになる」と警戒しているという。ロシアは昨年、サウジアラビアを抜き、中国にとって最大の原油輸入元になった。

北京の懸念は欧州のドイツを思い出せば理解できる。ロシアからバルト海峡を経由してドイツに天然ガスを送るパイプライン「ノルド・ストリーム2」は2021年秋に完成したが、ウクライナ戦争が起きたことから、ロシアからのエネルギー依存はドイツばかりか欧州の安全保障にもマイナスだという判断から、米国はショルツ独政府に「ノルド・ストリーム2」の操業開始を断念するように圧力を行使。ショルツ首相は「ノルド・ストリーム2の操業開始を停止する」と公表している。

北京側はドイツのエネルギー政策を学習し、ロシアからの安価なガスをどんどん輸入していけば、第2のドイツのようになってしまう、という判断が働いているのだろう。今回、プーチン大統領の訪中団にはロシア国営エネルギー「ガスプロム」(Gazprom)関係者は入っていなかった。ということは、中露間の「第2のパイプライン建設」案は現時点では保留されているとみて間違いないだろう。

以上、中露首脳会談の舞台裏を振り返ると、「永遠の兄弟」の中露間はけっして良好な関係とはいえないわけだ。中国側はウクライナ戦争で経済的にも窮地のロシアとの交渉では巧みに相手の譲歩を得る作戦に出てきている。西側では、ロシアは中国の「ジュニアパートナー」といった表現さえ聞かれるが、それだけではない。口の悪いジャーナリストは「中国にとってロシアは安価なガスや原油が手に入る給油所(ガスステーション)に過ぎない」と揶揄しているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。