1. 日本国内におけるPFIの現状
老朽化したインフラが増え続ける中、地方公共団体の土木費は横ばい傾向、土木技術職員数は減少傾向である。このような状況下において、地方公共団体は民間企業の協力を得て、公共サービスの提供を続ける動きが加速している。
官民連携の代表的な手法の1つがPFIである。PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法のことで、PFI事業の実施により、
① 一括発注・性能発注により民間ノウハウが発揮されコストダウンが期待できる
② 民間収益事業を組み合わせることで市民サービスの向上が期待できる
等の効果が期待されている注1)。
日本では、1999年にPFI法が制定され、この法律に準拠したPFI事業が実施できるようになった。さらに、2011年にPFI法が改正され、公共施設等運営事業(コンセッション)方式が認められるようになった。
コンセッション事業の対象となる施設は、2023年10月末時点では、道路、鉄道、水道、下水道、庁舎・宿舎、スポーツ施設、教育文化施設、集会施設、空港、新エネルギー施設等である。このような経緯から近年インフラのコンセッション事業が広まっている。
2. インフラの寿命とコンセッション事業期間
人と同じように物にも寿命がある。食品に賞味期限や消費期限があるように、家電製品や建築物にも耐用年数が定められている。家電製品の耐用年数が5~10年程度であるのに対し、インフラの耐用年数は50~100年程度となる。
表1に日本における主たるインフラコンセッション事業を示す。関西国際空港等事業を除き、事業期間が20~30年程度であることが確認できる。
単年度契約以外のインフラ維持管理分野の民間委託の例として、コンセッション方式の他に包括民間委託や指定管理者制度があるが、契約期間は2~5年程度となっている。コンセッション方式のメリットは、既存の民間委託とは異なり、多くの裁量が与えられることから民間企業の経験やノウハウを存分に活かすことができ、利益を生む仕組みを構築しやすい点である。
3. インフラコンセッション事業の課題
事業期間が長いことはメリットばかりとは限らない。事業期間が長いことに伴う課題もいくつかある。
1つ目は、インフラの耐用年数中に移管と返却が行われる可能性が非常に高いことである。
コンセッション開始に伴う管理者(地方公共団体等)から事業者(民間等)への引き渡しとコンセッション終了に伴う事業者(民間等)から管理者(地方公共団体等)への引き渡しの手間が発生する。
インフラの管理に不可欠な竣工図や点検データの引継ぎは然ることながら、進行中案件の引継ぎやデータの管理方法等、オペレーション面での手間も発生することが考えられる。さらに、コンセッション期間中に管理者側の人数を減らしていた場合、終了後の管理者側の体制を再構築することも必要になる。
2つ目は、事業主体の変化が維持管理に対するモチベーションに与える影響である。
コンセッション事業に参入する民間事業者は利益の確保を前提に事業を進めている。コンセッション事業において、民間事業者は管理者から引き渡されたアセットの状態を的確に評価し、コンセッション期間中に構造物としての役割を全うさせるべく、限られた予算の中で利益を確保しつつ計画的な点検、修繕に注力するであろう。
老朽化した構造物が増え続ける状況を見越して、予防保全型の維持管理や維持管理コストの平滑化を進めることで事業期間内全体における維持管理費用の削減が可能となり、利益性の向上に繋がる。この場合は、事業主体の変化がモチベーションを向上させた良い変化と言えるが、コンセッション終了間際は逆の事が起こる可能性も避けられない。
例えば、民間事業者が利益の確保を最優先した場合、事業期間が残り数年になると数十年後を見据えた先行投資的な修繕の優先度は低下することが考えられる。
ただし、コンセッション事業の契約時に事業完了後の引渡し条件を明示することで、モチベーションの低下を抑制できる可能性もある。
例えば、「事業完了時の構造物の状態は、健全性Ⅰもしくは健全性Ⅱとすること。ただし、直近1年以内に健全性Ⅲ・Ⅳと判定されたものに関しては修繕工事中もしくは修繕計画があればこの限りではない。」等と引渡し条件のみ仕様規定とする方法を取ることもできる。一部で仕様規定を取り入れたとしても、大部分が性能規定であればコンセッション事業が期待している民間のノウハウや経験を活かした自由度の高い運営との両立が可能となる。
3つ目は、技術やノウハウの継承である。
コンセッション事業は様々な企業のコンソーシアムで構成されるため、各社からの出向者が事業を支えている。また、会社の存続期間がコンセッション事業期間に限られるため新卒採用を行うことが難しい。このような点から、組織の人の入れ替わりが激しく、技術やノウハウの継承に課題がある。
本来、インフラを所有し、管理・運営を行っている組織にはインハウスエンジニアが存在し、何か不具合や問題が発生した際に簡単な事象であれば組織内で即座に対処する仕組みが整っている。インハウスエンジニアを雇用するメリットは、組織が培った長年のノウハウや知識を組織内で継承できることや構造物のライフサイクル全てに関わりながら、長期的な視点で構造物の維持管理ができる点である。
官公庁の土木技術職員や鉄道会社、電力会社の土木職員等がこのような制度を取っている。ただし、昨今は官公庁等のインハウスエンジニアも直轄作業の割合が激減し、外注作業の発注・管理が主な業務となり、インハウスエンジニアの役割も変化している。とすれば、外注作業を担う企業に技術やノウハウの蓄積を期待したいところだが、地域に根付いた中小企業は慢性的な人手不足という課題を抱えており、余力がない状況である。
4. まとめ
自由度が高く、民間企業の裁量が大きいという点でコンセッション事業への期待は大きい。ただし、耐用年数の長いインフラを管理する際、特有の問題が生じる。事業終了を迎えるコンセッション事業が出てくる前に、上記の課題解決策を考えていかなければならない。
【参考文献】
注1)PFI事業の概要:内閣府民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室),(参照日2024-05-18)