若者がよく口にする言葉に「自己実現」がある。この場合の「自己実現」にはどのような意味が込められているのだろうか。彼らの自己実現の定義とは一体なんなのか?
会社員の自己実現は、所属している組織におけるものと考えられる。たとえば、「昇進・昇格」「報酬」「研究」などが挙げられる。これを具体的にすると次のようになるだろう。
「昇進・昇格」=(例:25歳までに課長になる、30歳までに部長になる)
「報酬」=(例:30歳までに年収1000万円を超える)
「研究」=(例:特許を出願して登録する、学会で成果を発表する)
社内になんらかの基準があれば規定することは難しくはない。自己実現の基準が決まったら、手に入れられるかは別として、目標に向かって行動するのみである。
しかし、「昇進・昇格」「報酬」「研究」以外が自己実現の対象になると少々厄介になってくる。数値として明記できない、「創造性」「スキルアップ」「ボランティア活動」などが挙げられる。具体的にすると次のようになるかもしれない。
「創造性」=(例:芸術、音楽、執筆など、創造的な活動を通じて評価されること)
「スキルアップ」=(例:新しいスキルや知識を学び、個人的な成長を遂げること)
「ボランティア活動」=(例:社会貢献や奉仕を通じて、充実感を得ること)
人によって自己実現の形は異なる。大切なのは、自分にとって意味のあることを見つけ、それに取り組むことが大切だが、数値として明記できないものを対象にすると検証が難しくなる。
「創造性」は、活動が表彰されたり出版できるなどのアウトプットに結び付けば検証は可能だが、そうならないことの多い。「スキルアップ」「ボランティア活動」も他者から明確な評価をされない限り自己満足に陥る可能性が高い。
結果的に、「こんなはずじゃなかった」「自分のやりたいことは違う」とフラストレーションだけがどんどん溜まっていく。
若者と話をしていると、会社の閉塞感や理不尽、人間関係の不満を口にする人が多いことに気がつく。現状に満たされていないのである。社内で規定された「昇進・昇格」「報酬」「研究」の基準に価値を見出せていないことになる。
会社には資本の論理が存在する。だから利益を上げなくてはいけない。利益を増やすことでより豊かになるからである。
利益が上がれば社会的信用が得られる。銀行から資金を借りる場合も好条件で融資が受けられる。景気が悪くなっても、利益があれば不況の波に飲み込まれることもなく存続させることができる。利益があれば、より好条件の投資機会にも恵まれる。
誰もが、企業の論理と折り合いをつけるために努力をしている。会社に閉塞感があり理不尽が存在することは誰もが薄々わかっている。上司、同僚、部下との、人間関係に問題を抱えている人が少なくないことも事実である。しかし、折り合いがつかない人は、次の言葉を口にする。
「この会社では自己実現が難しい」。
たしかにそうかも知れない。ところが、企業の論理はどの会社もそれほどは変わらない。いまの会社で実現が難しいものが、他の会社で実現できる可能性はかなり低くなる。そのためには、どこかで折り合いをつけるしかない。
「転職」も悪くない判断だが、折り合いがつかない限り、同じことをくり返す。現状より、厚遇なポジション、報酬は得ることはできても、折り合いがつかない限り変わらない。そのために必要なことは、自己実現を明文化することである。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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