アメリカ国債の輝きは永遠か?

世の中には「常識」とされることが数多くあるのですが、常識が崩れることがないとも限りません。アメリカは絶対王者であるという理解のもと、アメリカの借金である国債は安定利回りの投資先として日本は積極的に購入してきました。政治体制が違う中国もアメリカ国債を大量保有し、一時は1.3兆ドルと日本を抜く世界最大のアメリカの債権者でありました。その中国はその後、売り基調が続き、現在は7600億ドル程度まで下がってきています。

NiseriN/iStock

中国がなぜ、アメリカ国債の売りに転じたのでしょうか?アメリカ一極体制であるパクスアメリカーナとなった90年代から2000年代はアメリカ一強で諸外国の財務当局はアメリカ国債を買わざるを得ない状況にあったといえます。アメリカの安定感とその規模などを含め、他に資金を預託しやすい国がないということもありました。ユーロ圏を一まとめにした「ユーロ国債」というものが存在すればそれが代替投資先になったのでしょうが、残念ながらそのような国債は存在しません。日本の国債を海外で売れば安定を求める諸外国には人気があったかもしれませんが、低利回りの上、国内でほとんど消化されるので購入されくいのです。つまり世界の政府レベルや機関投資家から見て長期安定投資の選択肢は割と少ないのです。

中国が経済のみならず、世界での存在感アピールし始めたのは2010年代になってから。そしてトランプ政権になってから中国を本格的に敵対視し始めたことから中国のアメリカ国債への投資が急速に減退します。バイデン政権は対中国外交についてはトランプ政権を引き継ぎ、厳しい体制を維持したので中国は加速度的にアメリカ国債を売却する事態になったのです。

ところで以前、アメリカのインフレだけが下がらないのはなぜだろう、もしかするとFRBは間違っているような気がする、と何度かこのブログで述べました。インフレ部分だけの解釈をすればサービス価格の上昇=人件費の上昇ということになります。しかしこれは世界どこでも同じ状況のはずでアメリカだけがこびりつくインフレになる特定理由にならないのです。

この理由を探している中で一つ、よくわからないのが国債と株価の関係です。国債価格は政策金利が上がると下がります。政策金利が上がると株価も一般には下がります。ところが今起きているのは政策金利が最高水準で張り付いているのに株価も最高水準にある点です。なぜなのでしょう?

アメリカ経済が今の金利状態を維持しながら廻ること自体がおかしいのです。経済面だけを見れば金利引き上げは景気が良すぎるからそのスピードを緩めるために行うのです。ところが今回の金利引き上げは純粋な景気面というよりインフレ面から利上げをしたのです。そのインフレはどこから始まったかといえばコロナ期です。その頃、借金を増やし、国債を発行し、民間にお金をばら撒いたのです。そのばら撒いた借金である国債はアメリカ国内、および中国を除く諸外国で吸収したのです。

国債は国の保証がついた債権ですから、アメリカが倒産することがない限り持ち続ければ為替差損益を別にして実損は発生しません。が、仮に世界にもっと魅力的で安定的な投資先ができたなら、世界のマネーはそちらに投資先を変えるでしょう。そうなるとアメリカ国債は魅力を維持するためにより高利回りの国債を発行する必要があります。それが高金利を維持せざるを得ない理由となり、国内物価はそれに合わせるようにすべてがスライドアップし、インフレになります。

つまり大胆な想像ですが、アメリカのインフレだけが収まらないのはアメリカが巨大な借金国家ゆえに国債価格と市場連動性が失われているのではないか、という気がするのです。もちろん、私はアメリカがトルコやアルゼンチンのようになると思っていません。ただ、仮に代替投資先ができたならばアメリカ国債は輝きをなくすことはあるだろうと思います。

ではその代替投資先はあるのか、であります。現在はとりあえず金(ゴールド)が手っ取り早い手段として各国中央銀行はかなり買い続けています。中期的に見て金は輝きを増すだろうとみています。大暴騰はしないけれど着実な上昇は期待できるし、物価上昇のヘッジになるとみています。なぜ、金なのかといえばそこには政治的中立性があり、安定しておりアメリカで持つ金も日本の金も中国の金も同じ輝きだからです。世界は中立的な投資先こそ安全な代替投資先と考えやすいのでアメリカ色が嫌いな中国や一部の権威主義国家はその資金の振り向け先を変えているのではないかと考えています。

もう一つの金のメリットは金の取引価格がドル建て表示である点です。仮に将来ドルの価値が下がった場合、金の価格はそれに反比例して上昇します。つまり金はドル為替へのヘッジができるのです。これぞ安全資産そのものなのです。

日本の財務省はアメリカ国債を馬鹿の一つ覚えのように買い続けていますが、私はバランス感覚でみると非常にセンスがないと思っています。日本の金の保有率は世界では9位の945トンですが、日本の対外資産のバランス感覚からすれば今の5倍、5000千トン程度持ってもよいと思っています。アメリカが世界一で8100トン、2位のドイツが3300トンです。アメリカが老いてきているのは否定できないし、リスクヘッジはした方がよいと思います。

常識が常識で無くなるとき、それは投資先がアメリカ国債一強だった絵図が変わるときであり、それが起きないとは限らないことは肝に銘じておくべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。