懲戒解雇を利用した人員整理術:社会的死刑の現実とは?

昨今、中小企業を中心に懲戒解雇を悪用した人員整理が横行しているようです。懲戒解雇とは、違法行為や重大な違反行為を犯した社員に対して、会社から課せられる制裁罰です。労働者は社会的死刑ともいえるほどの不利益を受けることになります。

履歴書には前職の退職理由に懲戒解雇と記載しなければなりません。そうなれば、再就職は極めて困難です。失業給付を受ける場合や税制面でも一定の制約を受けることになるなど、影響を及ぼします。

ところが、社員を解雇するために捏造して懲戒解雇に及ぶ手法が増えています。

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逆境に負けないリーダー

広告代理店に勤務する吉田さん(仮名)は、営業部門のリーダーとして勤務していました。ある日、上司の今川部長(仮名)に呼ばれ、「今月末で退職してもらいたい。個人業績、チーム業績も全社で最低レベルだ。これ以上会社にいてもらっても困る。役員会の決定事項だから君は拒否はできない」と、突然退職勧奨を受けたのです。

吉田さんは動揺しつつも「会社のためを思い尽くしてきました。残念ですが仕方ありません。相当額の残業代や未処理の立替金があるので精算してください」と、会社側へ金銭の精算を求めました。継続的な話し合いを求めましたが、今川部長が激高し拒否したことから、外部の労働組合(ユニオン)に入会しました。

ユニオンは会社側に協議を申し入れましたが拒否されました。企業はユニオンが申し入れた団体交渉を正当な理由なくして拒否する事はできません。正当な理由のない団体交渉拒否は不当労働行為となります。ユニオンは、東京都労働委員会に救済申し立てをしました。

通常、紛争が労働委員会などの行政委員会に移行すれば、企業は和解に向けた協議を開始するものです。労働委員会も早期解決を促し、泥沼になる前に金銭で解決することが大多数です。

ところが、中小企業は金銭解決をするだけの余力がありません。和解するまでの当該社員の給与も負担しなければならず、そのような負担を避けるために懲戒解雇という強硬手段に打って出る企業があるのです。吉田さんも、そのような懲戒解雇を受けました。

ユニオンが労働委員会に申し立てをした後、会社内で組織変更が通知されました。吉田さんは、すべての顧客の担当を外され、今川部長直轄の特命プロジェクトとして新規開拓のみを命じられました。吉田さんは、リーダーとして培った人脈やネットワークを通じて営業活動を行います。

しかし、会社はそれを仕事と認めず、戒告処分を発し、その2週間後に「業務命令違反」を理由に懲戒解雇をおこないます。吉田さんは業務命令に違反し、仕事をしていなかったという理由によるものです。

悪質な解雇との闘い

なぜ、吉田さんは懲戒解雇になったのでしょうか。取材で、次のようなこともわかりました。

吉田さんはいくつかの案件を受託することが可能でした。しかし、会社は受託することを認めませんでした。それどころか、勝手な営業活動をしたとの理由で、業務命令違反と判断されました。

さらに、業務命令違反中の活動については、不就労として処分を受けることになったのです。次に、実家の両親宛て、妻の実家宛に内容証明郵便による警告書が何度も届きました。仕事でトラブルを抱えていることを話していなかったので大変だったと言っています。

吉田さんは、東京地方裁判所へ解雇無効による地位確認と未払い賃金の支払い、損害賠償を求めて訴訟を起こしました。ところが、意外にも訴訟は有利には働きませんでした。

訴訟に移行すると、労働委員会や労働基準監督署は積極的に関与しなくなります。判断を裁判所に委ね、手を引こうとするのです。

また、訴訟はとても時間がかかります。1年半をかけて、ようやく和解勧告まで進みましたが、会社側は応じる気配がありません。無い袖は振れないとして、示談する気はないのです。

その後も、あらゆる引き伸ばし工作を仕掛け、地裁判決が出るまでに2年余りを要しました。判決が確定したにもかかわらず会社側は未払い賃金および賠償金の支払いを実行していません。

実は、このように裁判に負けても支払いに応じない事例は非常に多いのです。強制執行には多額の費用がかかる上、強制執行しても確実に取り立てができるという保証はなく、勝訴しても泣き寝入りを余儀なくされるケースは少なくありません。

ブラック企業として話題になるのは、長時間残業や残業代の未払い、パワハラなどが中心ですが、このように社員を陥れて懲戒解雇し、裁判で敗訴しても開き直って一銭も支払わない企業が存在するのです。

「究極のブラック企業」ともいえる悪質さですが、このようなブラック企業には、社会全体で対処する仕組みが必要でしょう。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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