退職代行サービス利用急増中!モームリと感じたときにまずやるべきこと(池上 天空)

弁護士 池上 天空

早いもので、新年度が始まって2ヶ月が経過しようとしています。春からの新生活を順調にスタートできた方々は、日々忙しくも充実した日々を過ごしておられるでしょう。

ただ、世の常としてそうはいかなかった方も多くいらっしゃるようで、特に今年は退職代行サービスのメディアへの露出が目立つように感じます。

会社の退職についていえば、法律上は労働者が退職の2週間前までに退職の申し入れをしてしまえば雇用契約は原則終了します。これが会社からの契約解除(=解雇)となれば、労働契約法をはじめとする特別法によって厳しい制限がかかります。

ところが、労働者からの退職申し入れについてはそのような規制はないので、退職まである程度余裕をもって退職届を提出するなり口頭で上司に退職を申し入れるなりすればそれで足ります。

そうであるにも関わらず、最近退職代行サービスの利用件数が増加しているのは、普通に退職の申し入れをしても、聞き入れてもらえず大声で叱責されたり、後任が入って引き継ぎが完了するまで辞めさせないと言われたり、場合によっては侮辱や脅迫に近いような言葉を投げかけられるような会社があるからなのでしょう。

ここで注意すべきなのは、この類の問題がある会社との退職交渉について、退職代行サービス業者に依頼をしてよいかという点です。

弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことは法律で禁止されています(いわゆる非弁行為の問題)。どのような業務をすると非弁行為にあたるかは判断が難しく、仮に自分が依頼している案件が非弁行為にあたらないものでも、同じ業者が別件で非弁行為を行っていたために突然業務が停止してしまう、といったリスクはあり得ます。

また、非弁か否かという業界の縄張り争いは弁護士会に丸投げするとしても、上に挙げたような問題のある会社では、もともと残業代不払等の未払賃金が発生していたり、一定期間勤務していた場合でも退職金を支払わないと言い張ってきたりと、単なる退職届の提出にとどまらない法的紛争が生じる可能性がそれなりにあります。

この場合、契約書や就業規則等の資料を収集して請求金額を確定させる、交渉がスムーズに行かないのであれば時効も加味して早期に労働審判や訴訟の手続きに移行する等、明確に弁護士に依頼すべき業務が多数発生します。このような場合は、最初から弁護士に依頼した方が全体の処理がよりスムーズに進みます。

料金が安くアクセスも容易な退職代行サービス業者に比べて、まだまだ弁護士事務所というのは敷居が高く料金も高額になりがちで、この点は私どもが引き続き改善に努めなければならないところではあります。

しかしながら、最近は少なくとも初回相談は無料にしてくれるような法律事務所も多々あります。単に退職を申し入れるだけでトラブルが生じるような会社を相手にするときは、ひとまずお近くの法律事務所にご相談いただくことをおすすめいたします。その上で、退職代行サービスの利用を含めて、ご自身にあった最適な紛争解決の方法を選択するのが最良だと思います。

なお、よくある質問として、突然退職したことを理由とする損害賠償請求が認められるか、といった類のものがありますが、一般的には難しい場合がほとんどです。

もちろん請求が認められる可能性が全くゼロという訳ではないので、困ったときはお近くの法律事務所にご相談に行かれた方がよいです。ただ、基本的には法律上2週間前の告知さえすれば退職してよいとされている以上、退職を理由とする損害賠償請求が認容されるのは極めて限定的な事例に限られます。

池上 天空(弁護士、岡野法律事務所所属)
1990年生まれ。九州大学法学部および法科大学院を卒業後岡野法律事務所に入所。現在は岡野法律事務所熊本支店支店長。趣味はゴルフで、スコアが100を切る目標に向かって練習中。