懲戒解雇の現実?同じクビでもこんなに違う!

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会社員が顧客情報を持ち出して「懲戒解雇」になった。教員が暴力行為を働いてケガを負わせて「懲戒免職」になった。このようなニュースをよく見かけます。

解雇の種類とその影響

解雇は使用者による労働契約解除を意味しますが、その中身を詳しく理解している人は少ないと思います。

解雇は「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇(懲戒免職)」の3つに分類されます。懲戒解雇(懲戒免職)は即時に雇用契約を切られ、予告手当や退職金もないなど、労働者にとっては死刑宣告を突き付けられたのと同じぐらい重い処分です。

「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできない」(労働契約法第16条)と規定されています。そのため、使用者の一方的な都合や不合理な理由による解雇は認められません。

つぎに、「懲戒解雇」と「諭旨解雇」の違いを解説します。「諭旨解雇」は特殊な位置づけです。懲戒解雇に相当するか、それよりも少し軽い非行・違法行為があった場合に、懲戒解雇を回避するために温情的に自主的に退職を求めるものだからです。

諭旨解雇は使用者と労働者の双方が話し合い解雇処分を受け入れるものですが、懲戒解雇は労働者にとって死刑判決です。諭旨解雇であれば退職金が支払われることがありますが、懲戒解雇の場合は退職金などは支給されません。

公務員は雇用保険に加入しないため、失業保険の給付もありません。懲戒免職処分を受けた日から2年間は、国家公務員もしくは当該地方公共団体の地方公務員として就職することができません。

一般企業への就職も困難を極めます。懲戒解雇の場合は「罰有り」と記載しなければいけません。刑事罰に当たらない限り、「罰有り」にならないとする専門家の意見があります。

筆者はこれまで、いくつかの労働審判や労働委員会に出席したことがありますが、重責解雇の場合は「記載すべき」とする専門家もいますので解釈がわかれるところです。

重責解雇とは労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇です。その場をうまくしのいだとしても、告知義務違反として経歴詐称で解雇理由に該当する場合があります。どんなに優秀でも、「罰有り」の人材を採用する会社は少ないでしょう。

解雇規制の緩和をどう考えるか

経済界からは「解雇規制の緩和」という根強い要望があります。具体的には「1年分程度の基本給を支払うことで金銭解雇を認める」という方法が検討されています。これには慎重な意見が見られ、反発する声も目立ちます。

労働審判などを経て得られる解決金はどの程度でしょうか。労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、労働審判における解決金額の平均値は229万7119円、中央値は110万円とされています。

日本の企業群のなかで中小企業の占める割合は99.7%。その中小企業にとって、退職してもらいたい人に1年分の給与を支払うことは大きな負担ですが、それでも現状では、労働裁判に訴えた人が、勝ち取れる解決金は年収の半分にも満たない金額だということも現実です。

とはいえ、日本には労働三権が存在し、日本国憲法第28条にその規定が設けられています。「解雇規制の緩和」には、これらの労働基本権との整合性が重要になってくることは明白であり、さらなる国民的な議論が必要になると思われます。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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