スペイン語を学校で教えないバレアレス諸島州

 地方から移民した多くの人たちは自分の子にスペイン語での授業を希望

スペイン憲法第3条に、スペイン語は公用語とされている。すべてのスペイン人がそれを知る権利があり、それを使用する権利をもっていると謳われている。ところが、スペイン語を学校で教えない自治州がある。バレアレス諸島州とカタルーニャ州である。

スペイン語はスペインではカステリャーノと一般に呼ばれている。それはカタラン語、バスク語、ガリシア語などと区別する意味でそう呼ばれている。

昨年バレアレス諸島の自治州議会選挙で国民党がスペイン語を学校教育の中に復活させると公約して勝利し政権に就いた。それまで8年間は社会労働党政権でスペイン語の授業が廃止されていた。ところが、国民党が政権に就くと、プロヘンス州知事政権は公約していたスペイン語での授業をしない。前政権と同じカタラン語だけの教育を実施するとしたのである。スペイン語の授業が学校で再び採用されることを期待して国民党に票を入れた子を持つ親を裏切ったのである

スペイン憲法よりも自治州法を優先

スペイン語による教育は上述しているように、スペイン憲法で義務となっている。ところが、自治州には自治州法があって、それを憲法以上に優先する傾向にある。そこで、スペイン語での授業の必要性を主張していた親たちが起こした訴訟から、最高裁は学校での授業の25%はスペイン語で行われるもの規定した。

ところが、実際には自治州法を優先して、スペイン語を全く教えないというのが現状となっている。特にバレアレス諸島州ではそれが顕著になっている。スペイン語は日常生活の中で接する機会が多くあるから教える必要がないというのが彼らの言い分である。

スペイン語による授業を受けようとすれば、私学の学校に入学させねばならなくなる。そうなると、親にとって教育費の負担が増すことになる。

1980年代まではカタルーニャの大学でもカタラン語での授業が分からない生徒が一人でもいれば、教師はスペイン語での授業をしていた。ところが、1990年代後半からプロセスと称して独立への動きが生まれてからは教育の面でもカタラン語を優先し、スペイン語を無視する傾向になったのである。カタルーニャ州でも特にバルセロナ県ではスペイン語を喋る比率が高い。しかし、バレアレス諸島州ではカタラン語が徹底している。

スペイン語を採用しない弊害は病院での専門医が不足

現実にはそれに問題がないわけではない。公的機関で勤務するにはカタラン語で読み書きできる必要がある。例えば、病院は深刻だ。カタラン語を理解できないと勤務できなくなっているからだ。だから、いくら優秀な医師でもカタラン語が理解できないとカタルーニャ州での病院で採用されないし、また医師もそこでの勤務を敬遠するようになる。

その影響で、バレアレス州のイビサ島では病院で専門医が不足している。いくら優秀な医師でも言語問題を敬遠してバレアレス諸島州の病院で勤務することを敬遠するのである。にも拘らず、政治家はカタラン語の普及にしか目が行かないのである。

また、幼少の頃から教科書もカタラン語で書かれたものしか知らないと、それが影響して大人になってスペイン語で読み書きすることに慣れない傾向が生じる人も出て来るであろう。

言語はそれが誕生した地域の文化を表明するものであるから尊重されるべくである。が、バレアレス州やカタルーニャ州のように100%カタラン語しか教えないというのは将来必ずマイナイ影響が出てくるはずである。何しろ、カタラン語はカタルーニャ州とバレアレス諸島州から一旦外に出ると通用しなくなるのである。

ラテンアメリカに行ってもカタラン語では通用しない。スペイン人は国よりも自分が生まれ育ったところを恰も国のごとく愛する傾向にある。その意味でもカタルーニャやバレアレスではカタラン語への愛着が強すぎるのである。

カタラン語を知らないスペイン人はそれを理解することはほぼ不可能に近い。それだけスペイン語とカタラン語には開きがある。ところが、バレンシア語は筆記がはカタラン語と同じ。但し、発音が異なる。だからバレンシア語を理解する人にはカタラン語を理解するのは容易である。