レガシーは遺産のことだが、故人が遺族に残す財産だけでなく、企業等の組織において、前任者から引き継がれる様々な事物をも意味し、特に負の遺産という表現のもとでは、承継されるべきではない悪しき慣習等を指す。そこから承継されないことに重点が移って、レガシーは、新旧の交替において、消え去るべき旧いものを意味することとなり、更には、何ごとであれ、除却には一定の費用を要することから、損失を暗示するに至るのである。
つまり、レガシー、即ち、過去から承継されるものには、未来に向けて価値を生み続けるもの、即ち、利益を内包しているものと、未来に向けて価値を毀損するもの、即ち、損失を内包しているものがあるわけだが、企業経営においては、多くの場合、レガシーは後者の意味で使われる。
それは当然で、企業経営の永続性を前提とする限り、過去は未来に自然に連続的に継受されていくのでレガシーとして認知されることはなく、過去がレガシーとして意識されるときは、永続性に疑義が生じたとき、即ち、経営の危機的転換点において、レガシーを捨てて、新しいものの創造に賭けざるを得ない状況だからである。
さて、企業経営において、ディスラプトとは、自然な連続的展開に非連続、即ち断絶を設けることだから、一方で、断絶前のレガシーを捨てることとなり、その意味で破壊的側面をもつわけだが、他方で、単なる破壊ではなくて、創造的破壊といわれるように、断絶後の新たなものの創造を内包するわけである。つまり、レガシーは、単に捨てられ、あるいは破壊されたのでは、新しいものの創造につながらず、新しいものが創造されるためには、レガシーは、何らかの方法で活用されなくてはならないのである。
その活用方法としては、非連続な局面における活用である以上は、多くの場合、レガシーを売却することとなり、更に、より優れた活用方法は、レガシーを単に売却するのではなく、より高い価格で売却し、より多くの現金を創出して、新しいものの創造に対して、より大きな投資を可能にすることになる。高く売るとは、適切な時点で、適切な相手に、適切な方法で売却することであり、要は上手に売ることであって、それが新しいものの創造の前提になるわけである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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