「年収2000万円」の商社パーソンは「労働者のエリート」

日本経済新聞の報道によれば、大手5大商社の平均給与は史上最高となり、三菱商事の平均給与は2000万円を超えたそうです(図表も同紙から)。

日本の会社員の平均給与は500万円を下回る水準であり、年収1000万円を超える人はわずか5%程度しかいません。年収2000万円を超える人は0.6%とも言われます。そう考えると年収2000万円を平均で給与として受け取っている大手商社の突出ぶりが良くわかると思います。

しかし、年収2000万円の生活とはどのようなものになるのでしょうか。年収とは飽くまで額面金額であり、そこから税金や社会保険料が差し引かれた金額が手取りになります。

手取り額 = 年収 – 所得税 – 住民税 – 社会保険料

例えば、年収2,000万円の場合、所得税520万円、住民税200万円、社会保険料160万円が差し引かれ、手取り1,120万円が基本となります。控除を使うことによって手取りは増減しますが、毎月の手取りは100万円前後といったところです。

手取りの100万円から家賃(あるいは住宅ローンの返済)、生活費、子供の教育費、といったものを支払っていくと年収2000万円とはそれほど豊ではないことがわかります。

特に東京ではある程度の賃貸住宅の家賃は30万円~40万円くらいはしますから、それ以外の支出をすれば投資や預貯金に回せる金額はほとんど残りません。

「家族で躊躇なく外食できる」「年に数回ビジネスクラスで海外旅行できる」といった一般的な豊かな生活は、会社員の年収2000万円では実現できないことがわかります。

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会社員は高収入といっても、給与から源泉徴収で税金や社会保険料を差し引かれる「労働者」です。大手商社の社員は「労働者のエリート」に過ぎません。

会社員の対極がオーナー企業経営者です。彼らが全て豊かに生活しているとは言いませんが、大手商社の社員より経済的に余裕を持った生活をしている人は珍しくありません。その理由の1つは、経費を上手に活用しながら、タックスコントロールを駆使して額面以上の経済的メリットを享受できるからです。

また、時間の自由も比較的得やすく、長期の休暇を取りやすいことも豊かさにつながります。会社に勤務しながら2週間以上の休暇を連続で取得できる人は日本ではまだまだ珍しい存在です。

サラリーマンと自営業。両方の世界を経験してわかったことは、2つの世界の間には行き来がしにくい大きな壁が存在しているということです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。