世界をうろつくマネーの行方:二分化、ないし三分化しつつある世界

もしもあなたが巨額ファンドを自由に扱えるマネージャーだったら今、どこにどう投資するでしょうか?ファンドというのは基本的に現金で持っていることがないので「今はお休み」というのがあまりないのです。もちろん、現金が滞留するときはありますが、それはあくまでも一時的で資金を動かすことがマネージャーの仕事になります。さもなければマネージャーのポジションは途端にはく奪されるでしょう。

こういうシビアな世界の中で資金運用を考えるとき、私ならまずは地球儀ベースで今世界がどういう状況でどこに向かっているのか、これを大づかみしたうえで少しずつ焦点を絞っていくやり方になるかと思います。また巨額の資金を想定する場合、その資金受け入れ先というのは割と限られているということも考えなくてはいけません。

例えば日本の株式市場でグロース市場に上場している銘柄は企業規模が小さく、浮動株が少なかったりするものも多く、一般投資家が売り買いするだけで価格が動いてしまうものもあります。「板」に数百株単位の売買注文が値が飛びながら並んでいるとすれば5000株すら動かすのは案外大変なのです。そういう観点からすると巨額ファンドを扱うマネージャーは基本的に量を扱える市場に注力するしかない、これが基本になります。それが日欧米です。その日本でもトヨタですら、時価総額約48兆円。一方日替わりで順位が入れ替わるアメリカトップ御三家のマイクロソフト、アップル、エヌビディアの時価総額はそれぞれが530兆円前後です。10倍以上の規模があるということは売買取引額も巨額で資金運用者には極めてありがたい存在になるわけです。

Damien VERRIER/iStock

こう見るとアメリカの巨大ハイテク企業が実質的に世界のマネーを吸い上げているのは運用側の理由も当然ながらあるといえそうです。ただ一般論からすると資金が集まるから企業業績が上昇するという方程式があるわけではなく、どこかで深い調整が起きることもあります。そのきっかけは恐慌に近い景気後退、戦争、国家体制や産業界の革命的変化などがあるといえます。

例えば台湾のTSMCは世界で最も注目される半導体メーカーでトヨタの時価総額の3倍以上の160兆円規模ですが、大きなリスクを背負っている会社でもあります。それはTSMCが将来アメリカと中国どちらを向いて仕事をするのか、であります。半導体のような戦略性の高い製品の場合、今のように両方にいい顔というのは政治的にも難しく、今後、強い選択を迫られるかもしれません。そのため、同社が高いコストをかけてアメリカに工場を作っているのも「顔つなぎ代」であると考えています。つまり、巨額の投資をしていますが、個人的にはアメリカで儲かる半導体事業経営ができるとは考えにくいのです。特に日進月歩の技術の中にあって工場建設は古典的なペースでしか進みません。その間、中国は同社を取り込もうと画策するでしょう。これがあるので世界を見据えた投資をしなくてはいけないと考えているのです。

世界は二分化、ないし三分化しつつあります。民主主義、権威主義、そしてグローバルサウスです。それぞれが対比語になっていないところがミソなのですが、もっとわかりやすい言い方にすると体制主流派、反体制派、新興勢力とした方がよいのかもしれません。体制主流派と反体制派の関係は共産主義発生からスタートし、形を変えながらアンチアメリカが醸成されたといえます。

特にこの傾向が強まったのはパクスアメリカーナの反動が大きいと考えています。つまり、ソ連が崩壊するも中国が台頭し、アメリカ覇権主義がそれを抑えようとする動きです。時代は前後しますが、911のテロが起きたのもアンチアメリカが世界に非常に多いということは理解する必要があります。

そしてグローバルサウスという新興勢力はパワーゲームにつきあい、どちらかの勢力図に入ることが得策ではないと考えはじめたともいえます。これが思った以上に台頭してきています。このように分極化する世界において投資は日欧米のマネーはもともとは地球規模だったものが体制主流派というパイにまで縮小するリスクはあるのだろうと考えます。例えばアメリカの国債はいつまでも様々な国が喜んで買うという常識が通じなくなるかもしれないと考えています。

現在、三極で価値のバイアスが起きにくい投資対象は金(ゴールド)や資源、農作物を含む商品、および仮想通貨であります。それ以外は政治色が非常に強くなり、投資選別の対象になると考えてよいでしょう。

ところで農林中金が米欧債で10兆円規模売却し、1.5兆円の損失を計上すると報じられています。これはよくわからないです。欧米の金利がピークに達しており、いよいよ下落場面に入る、つまり国債価格が上昇し、金利が下がる局面に入る矢先にわざわざ今売るのかな、という気がします。国債投資は安全とされたものの欧米の急激な金利政策の変化に日本の金融機関は手痛い思いをしたのですが、グローバルなマネーの動きからすると今回の売却方針で株主の理解が得られるのか気になるところです。

マネーはうろつきます。そして時として津波のように一気に押し寄せるのですが、今後は一定のリスクヘッジをすることを考えたほうが良いとみています。それぐらい世界は不安定でいつ何が起きるのかわからない、そんな恐怖感すらあるのが今日の経済であるとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月25日の記事より転載させていただきました。