こんにちは、経営コンサルタントで思想家の倉本圭造です。
今回の都知事選は本当に「支持者グループ同士」の相互憎悪がひどくて、有力候補3人についても、あまりに「自分の支持者以外を攻撃しまくる」情報が溢れている感じですよね。
そこで、できるだけ「党派的でない」形で各候補者の実像に迫ってみようという記事を、小池さん、蓮舫さん、石丸さんの三人について書きます。
まず前中後編の「前編」として、まずは石丸さんの記事がコレです。
残りの2つについては以下のリンクからどうぞ。
石丸氏について、「救国の英雄」的なレベルで持ち上げる意見がある一方で、真偽不明のものも含めた誹謗中傷(一部には健全な批判もありそう?)が大量にシェアされるようになっていて、なかなか実像がわからんと思ってる人も多いのではないかと思います。
特に、彼が安芸高田市長時代にあった議会との確執や、テレビ中継で『恥を知れ!』とかいういわゆる”劇場型政治”に対して、肯定的な人も否定的な人もいますよね。
「アンチ石丸派」がSNSで共有している「彼個人のスキャンダル」とかは真偽不明のものも多いですし今回記事では触れませんが、
今後の日本政治において「彼のような存在」をどう活かしていけばいいのか?
…という観点で掘り下げてみたいと思っています。
多少批判的に書いている部分もありますが、「全肯定でも全否定でもない」意見というのは今のネットで結構レアになってきているので、ぜひ石丸支持者の方も最後まで読んでいただければと思います。
結論を2行でまとめると、
・彼は単なる空疎なメディアパフォーマンスの人ではなくかなり本質的な政治に関する意志と能力を持ってる人ではある。
・ただし安芸高田市政を実体としてみればあまり力を発揮しきれているとは言えない部分もあり、彼のような人を日本社会が活かすには、メディアとか有権者側も考えを変えて進歩しなきゃいけない部分もあるよね
…というあたりになります。
1. 「日本の田舎において本当に変革を実現する」事を考える
ちょっと私事ですいませんが、私は石丸氏とかなり近い世代で、同じ大学同じ学部(京都大学経済学部で卒業年はちょうど入れ替わりぐらいのズレ)なので、なんか単純にシンパシーがあって好意的に見たい気持ちはすごいあるんですよね。
一方で卒業後のキャリアは結構対照的で、私は外資系コンサルティング会社のマッキンゼーに入ったあと、こういう「グローバルの先端的なやり方で日本企業を脅していうことを聞かせる」的なスタイルの限界を感じるところがあって、その後色々あって日本の中小企業相手のコンサルタント兼思想家になっています。
中には、日本の地方の中小企業で、10年で150万円ほど平均給与を引き上げられた事例もあるんですが、そういう「日本の田舎で本当に変革を起こした」的な実体験から言うと、衆目環視の中で
『恥をしれ!』
…とか言いまくる事自体はあまり良いことではないというのはまずあります。
なんか、居眠り程度のことであんな「公開処刑」みたいなことをしてしまったら延々と恨みが残るし、3万人ちょっとしかいない小さな市でそんな分断が生まれてしまったら本当に息の長い「改革」などできづらい・・・というのは明らかにある。
実際、上記の会社が「変わっていく」プロセスでは辞めてもらった高齢の役員もいたんですが、コンサルとして関わる僕以上にクライアントの経営者はめっっっっっっっっっっっっっっっちゃ気を使っていて、メンツをタテながら段階的に権限を削っていって最後は「勇退」していただく、みたいな感じだったんですよね。
正直、まあまあ都会育ち・外資系出身の自分からするともどかしい気持ちはあったんですが、クライアントの経営者は「田舎ではこうやらないと、社員が半分出ていったりしかねないんですよ」とか言っててめちゃリアリティがありました。
で、結果として、「大方針」は経営者側が出しつつも、細部の細部の部分では「反対派の人の知恵」も盛り込んでいくことで本当に「田舎町でも成立する変革」は実現したところがあるな、と私は感じています。
とはいえ!
じゃあ石丸なんかじゃ駄目だよね!っていう話がしたいんじゃなくて、個人的には好感持ってるしなんとか彼みたいな人を活かせる日本社会ではありたいと思っているんですが!という話を今回記事ではしたいので、石丸支持者の人も少し我慢して最後まで読んでほしいんですね。
2. 発信力は100点以上、実行力は70点(に結果的にならざるを得ない)問題
まず、今回の記事を書くにあたってはじめてちゃんと石丸氏の発信を時間かけて追ってみたんですが、彼の発信力はめっちゃすごいですね。
それも、なんかただ「はい論破!」的にメディアをぶん殴って見せるパフォーマンス的に浅はかなものだけじゃなくて、本質的にちゃんとごまかさずに正しく伝える能力があるっていうか。
そこはもうホント『本物感』がバリバリあって、ちゃんと「今必要なことをわかりやすく市民に伝える」能力は本当に超超すごかったです。
例えば、毎年財政説明会をやっていてYouTubeにあるんですが、「日本の地方行政の財政問題に関する、予備校の授業のようにわかりやすいレクチャー」としてはもう『完璧』といっていいものだった。
以下に2つ貼りますが、どちらもすごい良かったです。
普通にビジネスパーソンは「うちの社内会議がこれぐらい明晰に行われてるだろうか?」と考えてみるといいかも?(一部のかなり優秀な企業なら”標準的”あるいは”物足りない”と感じるかもですが、なんせ田舎の地方自治体の報告会でこんなの初めて見ました)
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ただ一方で、じゃあ「行財政改革」の実行度においてはどうなんだ?っていうと…まあこれ、全部石丸市長のせいかっていうとそういうわけでもないんだけど、まあ、現時点ではそんなすごい「大改革」が実現したというわけでもなさそうではあるんですよね。
以下は令和6年度予算編成方針について、という安芸高田市の資料ですが、在職中に安芸高田市の財政力は一進一退というか、むしろ「ちょい悪化」ぐらいではある。
上記記述の冒頭で、「過去2年改善していた経常収支比率」とありますが、これは石丸氏の超わかりやすい財政説明会でも説明されているように「積み立てすぎてた退職金を取り崩した」とか「コロナ関連で政府からお金もらった」とかなので、石丸氏の手柄というわけではないです。
YouTube財政説明会で石丸氏が細かく説明しているように、「ハコモノの維持費」が将来大問題になるためにそれを徐々に縮減していかないといけないんですが、石丸氏が就任する前の15年に「30%削減が必要!」と決めたのにだんだんおざなりになっていっていたのが、石丸氏の代でもものすごく縮減が進んだというわけでもなさそう。(ただし、”フェアに言うなら長期的な削減プランをある程度詳細に詰めるところまでは行った”ので、将来的にそれがそのまま実行されれば徐々に効いてくる可能性はあります)
あと、おそらく「財政再建」だけが大目標でそれに邁進してれば、もっと改善してた可能性は高くて、実は給食費の無償化(1億2千万)とか保育所での紙おむつのサブスクリプション(1億円)とか、小学校体育館の空調設備整備(1億7千万)とかにかなりお金使ってるんですね。
全体として「子育て関連」予算はかなり頑張って増やそうとした形跡が見られるんで、だから総額で見た時に「財政数字上あまり変わってないじゃないか」といっても中身はまあまあ変わっているとは言えます。
なんか、アンチ石丸派がアップしてる動画で突っ込まれてて面白かったのがあるんですが↓、中学生を集めて「生徒議会」をやった時に、生徒の一人が美術館の存続問題について質問したら突然石丸市長が給食費無償化の話をして激ヅメしはじめた・・・という事件があって。(雰囲気が伝わるので以下の動画再生してみてください)
この動画作成者が「何を言ってるんだこいつは」とかツッコミテロップ入れてますが、真面目な話をすれば石丸市長の中では(というか安芸高田市の財政状況をちゃんと見れば)ものすごく繋がってる話なんですよ。
色々と財政事情が苦しい中で、「子供向け予算だけはある意味潤沢につけようと頑張っている」という状況だったんで、本当に「アレを取るかコレを取るか」的な情勢になっていて、石丸氏は子育て予算の方を取るべきだ、という決断をしたという状況だったんですね。
3. 本当に改革を徹底して「実現」まで行くには、あと一歩「双方向的」になる必要があるかも?
要するに、「安芸高田市における石丸市政」の状況をだいたいで言えば、
- 発信力は百点満点以上、スーパー凄いし、しかもよくある「メディアで暴れて見せるけど無内容」みたいなんじゃなくてちゃんと本質的な内容に立脚した発信ができる能力がある。
- 一方で、「改革の実行度」みたいな話でいえば、子育て予算を潤沢に「使う方」はだいぶん増やせたけど、じゃあ実際「財政改革」の方はちゃんとできたかというと…
- 「将来的な削減プラン」は策定したけど、実現するかどうかはわからないし、そのうちなし崩しになる可能性も結構ありそうで、もっと良い事例も他の自治体ではあるかも?という感じ。
…ではありそうです。
フェアに言えば、「無理やりアピール的な削減」をしないで、将来にわたって無理なく実現可能な削減プランのスケジュール策定に力を注いだ…というのは、確かに悪いことではないようにも思います(追記なんですが、この記事がアップされてから、”石丸は安芸高田市で何もできてない”という風に読む人が結構いるようですが、そうではなくて、単なる点数稼ぎではない長期的に無理ないプランを作ろうとする良識があり、それをある程度形にする能力もある人なのだ、という点は強調しておきたいと思っています)。
ただ、それが本当に実行されていくのか、というのは結構難しいかもしれないですよね。その後辞めて抜けちゃったわけだし、議会には「アンチ石丸派」みたいな人が強くいる状態になってしまってもいるわけで…
この件がどうなるかは別として一般論的に言えば、やっぱり「本当に改革が実行される」ところまで行くには、「無駄な対立」を超えたところの協力を引き寄せる必要があるって話はありますよね。
この記事冒頭で私のクライアントの中小企業の話しましたけど、「敵対者のボス」にめっちゃ気を使って勇退してもらったおかげで、「敵対派閥」の人が主体的に参加してちゃんと知恵を出してくれる関係を維持できたんですよね。
そのおかげで、経営者側が出すビジネスモデル転換プランに対して「ちゃんと現場的に無理がない中身」を周知を集めて詰めることができたのが成功要因だったと思っています。
同じように、30%のハコモノを縮減していくとかなった時に、それをちゃんと「敵側」の人にも納得してもらって、その敵側に属する人の知恵も入れながら実行しないと、本当に「良くない予算削減」になっちゃうというか、コミュニティ的に非常に重要な部分を配慮なくカットしちゃう可能性が出てくる可能性がある。
意地悪くいうと「絵に描いた餅」的要素はあって、そういうプランは、将来的にやはりどこかでダダ崩れになって実現しない可能性も高い。
「敵対派閥のボス」は排除してもいいけど、「敵対派閥にいる”タイプの”人」の意見を取り入れないと細部の調整が本当の意味ではうまく行かない課題っていうのがどうしても出てくるところはあるんですよね。
「恥を知れ!」型の「劇場型政治」ではそこがうまくできなくて、だからここ以後はもうちょっとマイルドなタイプの市長に交代するほうが良かった状況だったと言えるかもしれません。
もちろん、好意的に言えば、「劇薬」として何が必要かを知らせる役割が石丸氏の代で、その後を継ぐ人がそれを「粛々と人間関係を密にしながら実現していく」役割というバトンタッチが理想とはいえるかも?
物事の実現には「思想家・革命家・実務家」が順番に必要だという話でいえば、「革命家」としての役割は終わったので、あとは「実務家」がちゃんと引き継いでくれれば・・・という感じなのかも?
4. 実は謎にやり手な小池百合子のステルス行財政改革(ただし密室感が生まれてしまう問題もある)
「恥を知れ!」型の劇場型政治の限界とそれを超えるには?っていう問題は、蓮舫さんの問題も結構当てはまると思うんですよね。
蓮舫さんが民主党時代に「二位じゃ駄目なんですか?」とか言って事業仕分けをしてたような予算の組み換えはものすごい恨みを買って未だに揉め事の種になってますよね。(で、結局そういう改革は中途半端に終わらざるを得ない)
今回も、「外苑再開発」とかで事業者側が抱えてる事情とか一切無視して「巨悪を糾弾!」モードになってて、それが以下記事でちゃんとまとめているようにかなりの無理がある。
日本の大衆はこういう「公開処刑」みたいなのが大好きなんですが、それが本当に「適切な改革」に繋がるのか?をちょっと考えるべき時ではありますね。
というのは、今回調べてびっっっっっくりしたんですが、実は小池都政が謎にやり手な行財政改革を実現してるんですよね。
え?そんなイメージゼロだったでしょ?僕も調べてびっくりしたんですが。
小池都政が「子育て世代」に大盤振る舞いしてて支持率高いのは有名ですが、それを新たな税金的負担増なしにやりきったのはもうちょっと評価されていいと思います。
余談ですがさっきまで安芸高田市の財政資料見てると単位が「千円」とかで、例えば「プロドライバーを招いての市民の安全運転啓発イベント予算36万円」とかが計上されててすごい「オラが村の予算案」っていう感じだったんですが(笑)
東京都は大企業の財務諸表みたいに単位が「百万円」とか下手したら「億円」だし、総額は兆円レベルだし・・・と「独立国」レベルの予算という感じで目がくらみますね。
で、以下は東京都の財政資料からですが、実は小池都政は8兆円ぐらいの都政予算から2千4百億円ぐらい行財政改革で無駄を削減して引き出して、それであの充実した子育てサポート予算とかを手当してるんですね。
約8兆円から2400億円程度って3%ぐらいですが、これは私企業じゃない公的機関としては結構すごいドラスティックなことだと思います。
なんせ、あの子育て支援で有名な泉房穂市長時代の明石市が、子育て支援に使ったお金が予算総額の1.7%の見直しだったそう(泉氏の著書より)なんで、
え?百合子実は有能じゃね?
っていう(笑)
こんな感じで、確かに、案外調べてみたら百合子有能なとこあるよね、っていう感じではあるんですよね。元ヤフーの宮坂さんをDX担当にしてグイグイ手続きのDX化を進めさせたりだとかも。
とはいえ、ねえ?って思うわけじゃないですか。
え?また小池百合子?なんかもっと別の人いないの?って思うこの気持ちはなんなのか?
要するに、こういう感じの「実はやり手のステルス型改革」だと、どうしても密室感が出てきちゃうわけですよね。
で、なんか例の都庁プロジェクションマッピングが電通とのコネで…みたいな話はどこかには出てくる結果になっちゃう。
それに、石丸氏が「長期的視野でプランを作った」みたいな内容は、小池さんからはどう逆立ちしても出てこなさそうではある。
また、若い世代で「普通に議論して普通に物事を理性的に進めたい」みたいなタイプの人間からすると、討論会みたいな場面での小池百合子の妖怪みたいな振る舞いに対して拒否反応持ってる人も多くいるのはわかる。
私はコンサル業のかたわら色んな個人と「文通」をしながら人生を考えるという仕事もしていて(ご興味があればこちらから)、そのクライアントには20代から70代まで男女同数ぐらいの色んな人がいるんですが・・・
ある50代女性の文通相手によると、大学生の息子さんが
「やっとマトモに話せそうな政治家が出てきたって感じじゃん。あの国会で居眠りしてたり怒鳴ったりしてる自民党の老人よりよっぽど良さそうに思うけど」
って言ってたらしくて笑いました。
石丸さんの支持者が20−30代、小池百合子の支持者が40−50代、蓮舫さんの支持者が60代以上が中心・・・っていうデータもあるみたいなんで、だから今回の都知事選はどうあれ、日本社会はもっと「石丸さんのような能力」をうまく活用できるようになっていかないといけないわけですよね。
じゃあどうすればいいのか?という話は、「後編」の「小池百合子編」の記事でもっと深堀りしていこうと思います。(以下リンクからどうぞ)
一言でいうと、今は「メディアのレベル、国民の政治意識のレベル」が低すぎて、「公開」より「密室」じゃないとちゃんと具体的な議論が動かせない状態になってるんですよね。
これをいかに「オープンな議論でも現実的な積み重ねができる関係性を作れるか」がこれから大事になってくるのだ・・・という話を後編の「小池百合子編」ではしているのでぜひお読みください↑。
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つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。
編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2024年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。