脱サラしてうまくいく人、後悔する人

黒坂岳央です。

会社をやめて独立すると、付き合う相手も会社の経営者やフリーランスばかりになる。彼らと話をしていると「独立後は苦しいことばかり。サラリーマンに戻ろうかな」とこぼす人がいる一方で、「思い切って独立してよかった!」と今の立場の幸せを噛み締めている人がいる。

仕事に向き不向きがあるように、脱サラして経営者やフリーランスになる道にも向き不向きがある。いい面ばかりみて脱サラをすると後悔すると思うのだ。

独立後にうまくいくための「仕事以外」のコツをシェアしたい。

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体調管理

サラリーマンだった頃、大事なプロジェクトの渦中で風邪を引いて休むというと上司から「体調管理も仕事のうちだぞ」と叱られたことがあった。正直、その時はあまり納得がいかなかった。そして有給を使って休み、自分が休んでいる間他の人が対応してくれたのであまり困ることもなかった。

しかし、独立すると自己管理は100%自分に跳ね返ってくる。先月の6月下旬、子供が学校からもらってきたインフルエンザに感染して数日間寝込んだ。全身が痛くて声を出せず、ベッドの上でのたうち回っていた。当然、仕事どころではない。だがお客さんや取引先を待たせるわけにはいかず、最低限の対応をしたら、すぐさまベッドに戻って横になる、というのを繰り返していた。病気と戦っている間は仕事はまったくできないし、有給なんてない。

病気だけでなく、普段の生活も同じだ。今はサラリーマンの時以上に体調管理に気を使っている。酒は一滴も飲まず、毎日8時間睡眠、運動はパーソナルジムに通っている。たとえ旅行や出張の時でも、極力普段通り過ごすように心がけている。もちろん、旅行中は旅先のグルメを楽しむことを優先することもあるが、そのかわりに翌朝の朝食や昼食を抜くなど、健康にはものすごく気を使っている。

独立した今ほど、「体調管理も仕事の内」という言葉が染み入ることはないのだ。

意欲との戦い

おそらく、ほとんどの人が躓く脱サラ後のポイントが「意欲」である。

サラリーマンはやる気を含めて働くための環境がお膳立てされている。スーツの身を包み、オフィスに出社すれば誰でもビジネスモードに切り替わる。仕事はドンドン上から降ってくるので片っ端からそれを処理していけば、やる気は後から出てくる。

一方で独立すると何もかもが自由だ。仕事をサボって動画をダラダラ見ても叱る人はいないし、なんなら3ヶ月間バカンスに出かけるなんてこともできる。しかし、その気になれば際限なくサボってしまい、監視の目がないという環境で頑張るには強靭なセルフマネジメントと意欲を生み出す創意工夫が必要になる。

もちろん、最初は誰もが必死になる。食えるかどうかがかかっていれば、人間はとてつもない馬力が出るからだ。しかし、ある程度の蓄財が進み、極端にいえば残りの人生一生分の資産形成ができれば「別に働かなくても食っていける」となり、一気に堕落する。こうなると水と同じで人間は高きから低きに流れる。そしてダメなままドンドン時間が経過していき、もう自分を信じられなくなってしまう。

「脱サラすると自由に生きられる!」ということに魅力を感じる人は少なくない。だが、いざ完全自由の世界に落とされても尚、規律を忘れず堕落せずにいるのはかなり難しいし、正直これは人を選ぶと考えている。

社会的な常識

サラリーマンと独立した人と会話して最も大きな違いを感じるのは、社会的常識の有無である。

独立したという話は一般的に「実力がありすぎてサラリーマンでは認められないから独立の道を選んだ」というオーバースペック気味に捉えられる事が多いだろう。しかし、その実情でいえば「価値観や常識がなく、サラリーマンを務められずにケンカのようになって会社を飛び出した」ということの方が多いと感じる。少なくとも自分の知っている人はそういう人ばかりだ。

もちろん、常識がないというのは悪いことばかりではなく、猛烈なハードワークをしたり、奇抜な発想をビジネスに変えたりといいこともある。しかし、相手との約束を守るとか、時間を厳守するといったレベルの常識が持っていないと信用を失う。サラリーマンはそういった常識は日頃から叩き込まれているので、あまり逸脱した行動を取る人はいないが、独立した人は完全にそこが狂っている人が意外なほどいる。

筆者が昔、懇親会で名刺交換をした相手は猛烈に営業をかけてきて、朝スマホを見ると真夜中に着信が入っていたり、「今渋谷ですが、一緒に飲みませんか?」みたいなお誘いが入っていたことがあった。他にも待ち合わせをしても大幅に遅刻してやってきて「すいません、朝弱いもんで」と言われたこともある。そんな調子で営業の仕事が務まるのか?と心配になってしまう。

脱サラ後の生活がうまくいくかどうかは人を選ぶ。誰しも子どもの頃から、学校や大人になって会社でマネジメントされる側に立つことに慣れている。いきなり脱サラしたらその自由なリソースを活用して精力的に頑張る代わりに、堕落してしまう可能性が高いだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。