再エネタスクフォースの利益誘導について原英史さんが開き直っているので、あらためて事実を指摘しておこう。
相場の負けを補填しろと主張した新電力
2020年冬から寒波でLNGのスポット価格が上がり、卸電力市場(JEPX)のスポット価格は250円/kWhまで上がった。このため30円ぐらいの電気代で売っている小売り業者の経営が破綻した。これに対して再エネタスクフォースは2021年2月に「緊急提言」を発表し、卸電力市場(JEPX)で高値で買って損した新電力に損失補填しろと提言した。
この程度の寒波もLNGのスパイクも、世界の市場ではよくあることだ。卸電力の価格が200円/kWhになることは日常茶飯事であり、ウクライナ戦争後には(電力に換算して)1000円以上のスポット価格がついた。
むしろ2020年までは大手電力が価格を抑制してきたので、新電力は価格変動に対するバッファがなかった。それがこのときはスポット価格の値上がりが大きすぎて卸値に転嫁されたため、過小資本の新電力の経営が破綻したのだ。
それはまさに電力自由化の想定した事態である。250円ぐらいの卸値でつぶれるような新電力はつぶれるにまかせ、体力のある会社が買収すればいい。ところがここで汚職議員の秋本真利ひきいる再エネ議連と再エネTFが、新電力を救済しろというキャンペーンを張った。
汚職議員と連携した再エネTF
再エネTFが2021年2月3日に発表した緊急提言はこう書いている。
- 競争政策の不備があったこと、消費者にも大きな影響が及ぶことに鑑み、経産省は、1)の真相究明の結果も踏まえ、新電力等の経営を支援する緊急措置を講じる責任がある。
- 自由価格であるスポット取引の決済について、発電事業者に対し、小売事業者の支払い期限の延期や分割払いを認めるよう要請する。なお、約定価格の遡及的な見直しについても検討するよう要請する。
- 規制分野であるインバランス精算について、市場連動の料金が一定の値を上回る場合には、限界費用ベースの料金を別途設定する。この措置を12月20日頃まで遡及的に適用し、一般送配電事業者に対し、想定外の差益を小売事業者に還元させる。
「約定価格の遡及的な見直し」や「想定外の差益の還元」という表現で、露骨に損失補填を要求している。その前提として「競争政策の不備」があったというが、不備とは何か。
この提言には「問題は12月末から顕在化していたが、経産省の対応は遅く、状況説明も正確でなかった」という程度しか書かれていない。そもそも競争政策の不備が原因なら、賠償すべきなのは政府であって電力会社ではない。
原さんは電力会社の「不正」があったと書いているが、この提言には「売り惜しみのような行為がなかったのか、明らかでない」という程度の記述しかない。むしろ旧一電もLNGの値上がりで大きな損失をこうむり、そのスポット価格を卸価格に転嫁しただけである。
大手電力の「インバランス収支還元損失」は787億円
その後も電取委やエネ庁が調査したが、不備も不正もなかった。しいていえば、こういうスパイクは新電力にとっては初めてだったので、資本のバッファが少なかった。そのぶん利益率も高かったので自己責任だが、最初だけは損失を分割払いにするぐらいが妥当な対策だろう。
ところが再エネ議連と再エネTFは猛烈な陳情を繰り返し、エネ庁はインバランス収支還元の「要請」を出した。これには法的根拠はないが、日本の役所お得意の行政指導である。その結果、9電力が要請に応じ、2021年度決算で次のような特別損失を出した。
・北海道電力:115億円
・東北電力:264億円
・東京電力:163億円
・北陸電力:13億円
・中部電力:55億円
・関西電力:107億円
・中国電力:16億円
・四国電力:15億円
・九州電力:39億円
合計787億円である。これは東電の場合、営業利益462億円の35%を吹っ飛ばす大損害だったが、マスコミはまったく報じなかった。これは新電力の損失を大手電力の消費者に負担させる大規模な再エネ詐欺である。
このように再エネや規制改革という美名のもとで電力インフラという「コモン」を食いつぶす寄生虫がインフラを劣化させ、電気代を上げているのだ。
7月からのアゴラ経済塾「脱炭素化は地球を救うか」では、このような再エネ利権の実態も考えたい(申し込み受け付け中)。