トランプ前米大統領は「前回の1期目の任期では果たすことが出来なかったことが多かった」として、大統領選でホワイトハウスにカムバックできたならば「今度こそやりたいことがある」という。その内容をまとめたのが「プロジェクト2025」だ。
900頁に及ぶ通称「プロジェクト2025」は、共和党とドナルド・トランプ前大統領が推進している政策提案および行動計画をまとめたものだ。このプロジェクトは、政権交代後に政策を迅速に実行するための具体的な計画と手順を準備し、トランプ前政権での経験を活かして効率的な政府運営を目指すことを目的としている。
米共和党は15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開幕した党大会で党綱領を採択したが、その内容は「プロジェクト2025」からの抜粋で、トランプ氏の選挙公約を意味する。
「プロジェクト2025」の目的は共和党の政策理念の実現だ。小さな政府、自由市場経済、強力な国防といった伝統的な共和党の価値観を推進することだ。
少し、内容を整理してみる。
- 政府の構造改革
行政機関の再編成を行い、連邦政府の規模と影響力を縮小する。
特定の規制機関やプログラムを廃止するか、大幅に縮小する。 - 経済政策
減税政策の推進。
企業規制の緩和。
エネルギー自給自足の促進(石油・天然ガス産業の支援を含む)。 - 移民政策
国境管理の強化。
不法移民の排除。
移民法の厳格化。 - 教育政策
教育カリキュラムの見直し。
親の権利を強化し、学校での教育内容に対する親の関与を促進 - 外交政策
アメリカ第一主義を再度強調。
同盟国との関係再編。
国際機関からの距離を置き、国内問題に重点を置く。
具体的には、「移民の侵入阻止」「電気自動車(EV)推進策を取り消し」、中国に対しては、「優遇関税の最恵国待遇撤回」、「必需品の輸入を段階的に停止し、米国の不動産・産業の買収の阻止」など厳しい政策が明記されている。外交政策では同盟国に対し、共同防衛に関する負担義務を求めるなど、アメリカ・ファーストを強調している、といった具合だ。
一方、米民主党は共和党の「プロジェクト2025」に対抗するタスクフォースを設置している。このタスクフォースの目的は、共和党の政策提案に対抗し、民主党の価値観と政策を守るための戦略的な動きだ。共和党の政策提案に対する具体的な対抗策を策定し、民主党の政策ビジョンを強化。特に、経済政策、医療政策、環境政策、社会正義に焦点を当てた対策を展開している。その一方、共和党の政策がもたらす可能性のあるリスクや問題点を有権者に伝えるための広報キャンペーンを実施。民主党の政策の利点を強調し、有権者の支持を得るための戦略を構築するため、民主党内外の専門家やシンクタンク、活動家グループと連携し、幅広い視点から対策を強化している。共和党の「プロジェクト2025」によって脅かされる可能性のある民主党の価値観や政策(例えば、環境保護、医療アクセス、社会正義など)を守ることだ。
メディア情報によると、米共和党の「プロジェクト2025」では、国家公務員の大規模な入れ替えが計画されている。これは約5万人の連邦職員の解雇または再配置を含む。目的は、政府の効率性を高め、共和党の政策目標を迅速に達成するためとされている。
トランプ前大統領とその支持者たちは、連邦政府の官僚機構を「ディープ・ステート」と見なし、これを改革または排除することを狙っている。約5万人の連邦職員を解雇し、忠実な支持者や共和党の政策に沿った人材に置き換える計画だ。トランプ政権の政策を迅速かつ効果的に実行するために、政権交代時の政策実行の障害となり得る官僚的な抵抗を排除するためだ。
いずれにしても、トランプ前大統領とその支持者たちは、第一次トランプ政権では行政機関内での抵抗に直面したと感じており、それを「ディープ・ステート」の影響と見なしている。このため、次期政権での政策実行を円滑にするために、連邦職員の大規模な入れ替えを計画しているわけだが、行政の独立性や専門性を損なうリスクもある。批判者は、政権の政策に反対する意見や専門的な視点が排除されることで、政府の機能や信頼性が低下する可能性を懸念している。
以上、「プロジェクト2025」の概要をまとめてみた。その内容が実際、完全に履行された場合、米国社会は大きな変革を迎えることになる。注目すべき点は、「プロジェクト2025」は単にトランプ大統領一人の政治信条を反映したもので、トランプ政権が終われば幕を閉じるといったものではないことだ。トランプ主義は共和党の未来のビジョンとして受け取られてきているのだ。トランプ氏は、自分より40歳余り若く、”トランプ氏のクローン”と呼ばれるJ・D・バンス上院議員を次期副大統領候補に任命することで、その事を内外に明らかにしたわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。