シェアオフィスの運命:需要はあるものの今は供給過多の状態

私の事務所が入居しているシェアオフィスは英国系の大手チェーンが運営しているのですが、この1-2ヵ月、日を追うごとに事務所が静かになっていくのです。受付兼現場のマネージャーさんに「最近、やけに静かだねぇ」と呟いたところ「そうなの、この前も3つ空いたし、あなたの事務所があるあたりはほとんどガラガラね」。いや、私の事務所がある場所だけでなく、全体がガラガラなのは共同の洗い場の食洗器に入っているコーヒーカップや皿が少ないことでわかるのです。それこそ、マグカップの数を見ればある程度の就業者数は想像できます。空室率は7割を超えていると思います。他のシェアオフィスが同様だとは思いませんが、私の知る限り、シェアオフィスのトレンドはかなり収束してしまったと思います。

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なぜなのかあらかた理由は分かります。それはシェアオフィスを作業場として考えていた会社はそこに事務所を構えることが無意味であると気がついたからです。オフィスとは同僚らと接点を持つことで切磋琢磨することが求められるのです。が、多くの働く人は家でもできる仕事をわざわざ事務所にきてやらされているのです。私の向かいのイラン系のオンライン販売会社は突然退去。理由を聞くと、事業の本拠地をドバイに移すからと。「ドバイ?では皆さんはどうするの?」ときけば「在宅オンライン勤務よ」と。

もう一つ、シェアハウスの事務所の壁は薄いのです。つまりいくら隣の部屋の方と何の関連性もないビジネスをしているとしても声がまる聞こえなのは勘弁してほしいのです。事実、私の事務所の隣に時たま出社してくる方がいるのですが、この方は電話好きで出社するとずっと電話をしています。問題はその内容が全部はっきり聞こえてしまうのです。壁に穴があるのかと思うぐらいで日本の昔の安普請のアパートより酷いかもしれません。

私どもも自社のオフィスの建築に取り掛かるところなのであと8か月程度の辛抱ですが、シェアオフィスはそういう意味では使いづらいところがあります。例えば私の知るWeWorkのあるオフィスでは電話室という公衆電話ボックスみたいなものがあります。そこに入居者は携帯をもって電話をかけに行くというわけですが、間尺に合わないし、だいたいかかってきた電話はどうするのか、という問題もあります。

お前はなぜ、事務所が必要なのか、思われるでしょう。少数精鋭で事業のポイントに最小限の人員しか配置しません。ならば必要あるのか、と。私のところは事務所であると同時に作業場でもあります。特に書籍関係の入荷と出荷の基地のひとつになっていてすぐそばの倉庫には在庫を相当数持っています。また多岐な事業をしているのに一本しかない会社の代表電話にかかってくる電話をとるとまず、どの案件の話なのか判別したうえで自分の担当か、私の相方の担当か判断し、振り分けることも必要です。また作業は全てが一人で完結するわけではなく、共同作業も多々あります。

もう1つは私自身の存在が全体を引き締めるのです。私どもの事業の多くは現場作業が多いので在宅勤務が難しいものばかり。その中で社長だけ在宅勤務ってずるくない?になるわけです。それ以上に「俺もいるぞ、皆も頑張ろう」というメッセージは必要です。マリーナ事業の現場マネージャーはこの時期なら繁忙期なので多い日には5-6回電話をかけてきますが、私が事務所にいるからこそ、気軽に電話できるのです。日本にいると分かっている時は一度もかけてこないですが、その代わりいろいろうまく廻らないこともしばしば起きるわけです。

日本の場合、オフィスワークが復権していると思います。私が思う大きな理由は2つ。1つは日本の家は狭いのです。在宅勤務にはふさわしい環境があるのか、です。例えば独り者ならいいですが、家族持ちで小さい子供もいるとなればとても集中して仕事をできる状況になりにくいでしょう。2つ目は日本の仕事の仕方はチームワーク主体である点です。北米は一人ずつに明白なジョブディスクリプションと権限と責任が与えられます。それを達成できるかは一人ずつのモチベーションが主体になります。ところが日本はチームへの仕事のアサインメントになります。例えば〇〇係長のチームでこの案件に取り掛かってほしい、という仕事の振り分けです。その為に在宅ではやりにくいのです。

最近はオンライン勤務でもさぼっていればわかるソフトウェアがいろいろ出ているのですが、逆に管理の目がオフィスワークより厳しい感じがするのです。まるで監視されている囚人のようなもの。それでもオンライン勤務を選ぶのか、といえば少なくとも私は適合できないのです。

在宅勤務が進んだとされる北米でも一定の揺り戻しはあるでしょう。ただ、上述のように仕事のアサインの仕方が日本とかなり違うので一定の在宅勤務は今後もあると思いますが、そうなればシェアオフィスの存在がいかにも中途半端になり、ある程度の需要はあるものの今の供給過多の状態は修正されていくのだろうと思います。

事業というのは3年とか5年で時代のトレンドが変わるので本当に難しい世の中になったと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月18日の記事より転載させていただきました。