ガザ戦闘終結は何故困難なのだろうか?

イスラエルのネタニヤフ首相がアメリカ議会で演説し、ハマスに完全勝利するまで戦闘を続けると述べました。第三国での議会演説ですからその発言には通常以上の重みがあると考えるべきでしょう。イスラエルの政策を巡ってはバイデン大統領は6月に停戦にむけた3段階のロードマップを打ち出しましたが、その内容は第三国からも一定の評価があり、これで話がまとまるように見えたのですが、結局、実行に繋がっていません。

ネタニヤフ首相インスタグラムより

ネタニヤフ氏自身の国内での非常に難しい政権運営のかじ取りが背景にあることは事実ですが、氏自身が強い保守思想であり、首相の座を降りた瞬間に氏個人にかかる様々な嫌疑、逮捕収監の可能性を考えるとやるだけやる方が得策という考え方もあるのかもしれません。

ただ、それ以上にイスラエルという国の成り立ちと今日に至る困苦を理解しないと彼らの必死の抵抗は分かりにくいかもしれません。

いわゆる一神教の三大宗教といえばユダヤ、キリスト、イスラムであり、時代的にユダヤ教が一番古くなります。この三大宗教の共通点は旧約聖書のアブラハムを祖としている点であり、兄弟とか姉妹関係と言われてます。それゆえに双方が譲れない関係にあるもののユダヤ教徒に関してはいかんせん世界にいる人数が1400万人程度で人数的に他の二つの信者に比べ、二けた足りません。

またユダヤの国としてイスラエルが建国されたのは1948年。ユダヤ人の長い歴史とは裏腹になかなか自国を持てませんでした。よってイスラエル人にとってその意味合いは宿命を通り越した祖国防衛の塊だと言ってもよいでしょう。

ユダヤ人を「死の商人」とも称し、日本では美化された意味合いにすることもありますが、少なくとも私の周りではそういう訳ではないと思います。敢えて言うなら「えげつない」という表現がぴったりくると思います。私も長年多数のユダヤ人とお付き合いさせてもらいましたが、ビジネス感覚についていえば「がめつく」、人付き合いについては「ユニークさを強く打ち出す」であり、社会の中に上手に溶け込めない雰囲気があります。言い換えれば「社会に妥協しない」性格と言ってよいでしょう。

死の商人は裏返せば、人がやりたくないことをやってビジネスにする面でもあります。私の知るあるユダヤ人は牛や豚などから出る脂から工業製品にする事業をしていますが、彼らが築いた財産は果てしないものがあります。なぜ動物脂からそれだけの資産を形成できたかといえば動物の解体を経るビジネスは一般の人が誰もやりたくなかったので独占できたのです。さらに創業者家系のたゆまぬ投資姿勢は強烈でした。特に大きな事業になったのがバンクーバーの競馬事業と不動産賃貸事業であり、本業を起点として大グループ会社を組成していくのです。

世界に君臨するユダヤ人の政界、財界での活躍ぶりとはまさにこのような経緯を辿りながら圧倒的成功者となり、社会の中でどう思われようが強みを増していく、そういう生き方なのです。

ネタニヤフ氏がガザ地区に完全勝利するまで譲らないという思想はユダヤの魂である「信じられるのは自分だけ」という考えを地で行っているように感じるのです。そしてネタニヤフ氏は1948年にようやく得たユダヤ人の地をカラダを張って守ろうとしているわけでそこには論理も妥協も国際世論への協調もないのであります。

ただ、私が懸念しているのはイスラエルが現在対峙しているのは宗教戦争の色合いが濃いわけで仮にガザ戦闘でイスラエルが一定の成果を上げたとしてもそれで終わることはまずないだろうという点です。この戦闘が始まった時はいつもの3日戦争で終わるのかと思っていました。それは双方、それが泥沼になることが分かっていたので「お互い様」になった時点で停戦していたのです。ところが今回は暴走列車のようなブレーキが全く効かない状態に見えます。

イスラエルの敵はハマスだけではないのです。背後にはいくらでもいるしモグラたたきのようなものなのです。西側諸国が冷たい姿勢をとればとるほどイスラエルは頑なになり、祖国防衛をより意識することになるのでしょう。トランプ氏が大統領になればイスラエルには強力な追い風になりますが、ハリス氏ならばイスラエルの孤独感はより強まるでしょう。

個人的にはネタニヤフ氏はアメリカ大統領選挙の結果が出るまでは現状のスタンス、つまり敵と徹底的に対峙する姿勢を貫き、アメリカ大統領が決まった時点で大きな判断をする節目を迎えるように感じます。ただ、トランプ氏が大統領として中東政策に首を突っ込むとなればそれは中東とビジネスディールをするか徹底的な敵対関係になるか、黒白はっきりした要求を突き付けるわけですからそれはそれで予見が難しい外交だとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。