そこまでして億ションが欲しいのか?

岡本 裕明

かつてバンクーバーはコンドミニアムライフのメッカと言われ、その開発、デザイン、居住性の追求において世界最高水準とされたことがあります。私がその世界にどっぷり漬かっていた90年代から00年代の頃です。

北米ではそれまでのライフスタイルの中心は戸建て、しかも多くは中古住宅で郊外の広い家に住み、車で通勤が当たり前だったのですが、職住接近で歩いて会社に行き、環境問題のみならず、時間の有効活用、通勤のイライラを解消するといったことが提案され、バンクーバーダウンタウンに雨後の筍のようにコンドミニアムが開発されました。

また、子供が巣立った世代である50代ぐらいのご夫婦に広い戸建てを売ってダウンタウンのコンドに住み、アクティブな生活を楽しもうと新しいライフスタイルのうたい文句も流行りました。

そんな背景もあり、バンクーバーのコンドミニアム価格は世界でも割高が続き、いわゆるビジネス都市圏であるニューヨーク、ロンドン、香港などと比べてもそん色ない価格帯であり、今でもカナダのビジネス都市圏であるトロントより高額を維持しています。

理由は1986年万博以降、見事な右肩当たりの不動産市況を背景に需要旺盛で優良な土地が枯渇していること、建設費が果てしなく高騰していること、工事期間が延び開発業者の金利負担も大きく、当局の開発事業への付帯諸条件がより厳しくなり、それらのコストがエンドユーザーに転嫁されていることが挙げられます。

そのため、ダウンタウンのコンドは一部屋当たり1.5億円から2億円レベルが当たり前になりつつあり、郊外に行けばようやく1億円以下で手に入るという感じです。

しかし、値ごろといわれる8000万円から1億円程度の新築コンドを見に行っても私が20年も前に開発したデザインレベルと大差がないか、むしろ価格を下げるために仕様を落としています。

例えばキッチンの大きさ、アプライアンスのクオリティ、暖炉のあるなし、暖炉があってもその縁は高級な石材を使っているか、バスルームのサイズと大理石の使用具合など総合的に見ると現在の新規発売物件は多くが普及品レベルです。デザインも画一的、ロビー回りも狭くなり、エレベーターは4-50階建てでも3基しかない状態です。つまりコンドミニアムのハードの部分の成長期はとうに過ぎ、目新しさがないにもかかわらず、それでも売れる状態とも言えます。

では東京。マンション価格は8000万円から1億円レベルで平米単価でみれば場所によりバンクーバーより高くなっておりますが、それでも売れているようです。かつては金持ちが相続税対策などを理由で購入していましたが、今では実需も多く、パワーカップルが1億円以上のローンを組むケースもあるようです。

そこまでしてマンションがなぜ欲しいのでしょうか?理由には通勤に便利、一等地といったことが上がっています。

CHUNYIP WONG/iStock

私はこれ、変だと思うのです。購入する高額マンションのために夫婦で仕事をするようなもので人生の重要な部分である30〜50代をローン返済のためにあらゆる犠牲を払ってでも働いているように見えるのです。

余力がない、職業選択の自由も少ない、子供も作らないのです。当然ながら残業も多く、外食も多くなりお金もかかります。高級マンションなら自家用車が軽自動車というわけにもいかず、舶来かレクサスぐらいは欲しいところ。つまりステータス維持のために仮面をかぶり続ける20年になるのではないでしょうか?

一方、日本は空き家問題が引き続き重要な課題です。先日も北九州市の方と話していた際、街の空き家問題の解決策がないものか、と嘆いていました。私の思う解決策はあります。今日は詳しくは述べませんが、ランドバンク方式で街づくりを根本的に変えることは可能です。

日本の都市整備や開発をみると空にも届くような高層マンションもあれば放置された空き家とあまりにも対照というか陰影が強すぎるのです。本来ならば政治家や役人が本腰を入れるべきなのですが、前例主義というか、ノーアイディアなのか変わる気配はありません。

不動産を生業としている者から見ると日本ではタワマンはバンクーバーのように増えないと思います。なぜなら住宅は国内需要が主力ながらも収入がそこまで伸びず、需要の奥行は限定されるからです。

一方、物件の値上がりは続く可能性は高いと思います。理由は建設費の高騰が続くからです。よってコストが上がり過ぎると需要が価格上昇に追い付けなくなるのでタワマンは増えなくなるとみています。ならば中古のタワマンの価格も一定水準以上になりにくいとも言えます。

ただし、唯一の例外は先日の話ではないですが、東京が本格的な国際都市と化せば、タワマンは外国人御用達住宅という売り方もあるでしょう。私は違和感はないですが、多分、多くの日本の方は嫌でしょうね。

外国人がマンション投資をする理由があるとすればそのリターンというよりヘッジだと思います。つまり安全なところに住むところと資産をとりあえず確保しておくという発想で、私が金(ゴールド)がいいね、というのとまったく同じ発想です。海外にはそれぐらい様々なリスクが付きまとっており、日本は「安全・安心・安定・第一」なのであります。

タワマンは維持管理費が通常マンションより数割高く、おおむね管理費と修繕積立金で月3-5万円ぐらい要します。ただ、タワマンにおいて本格的な大規模修繕を迎えたものがまだ少なく築後20-30年たった時を想像する必要はあるでしょう。そもそもそんな巨大建築物でいったいどんな人が管理組合のリーダーシップを取りたいと思うのでしょうか?私は管理にある程度熟知しているがゆえにもっともやりたくない任務であります。

ところで東京に行った際、馴染みの不動産屋に「(不動産市況は)どう?」と声をかけると「高くなりました!」と。この不動産屋は戸建てや土地の売買の扱いが多いのですが、取引実勢ベースでの坪単価はこの5年で2割以上上昇、かつてよく見かけたパワービルダーがお得意の広い敷地を数分割して3階建ての住宅を数戸建てるという案件も見つけるのが困難とのことでした。

くだんの不動産屋の守備範囲は狭く、ごく限られたエリアの話ですが、パワービルダーの住宅でさえ億円の価格帯が迫ってきているといわれるとなるほど東京の不動産は確かに高くなったという印象はぬぐえません。

タイトルの「そこまでして億ションが欲しいのか」ですが、私は正直、わからないです。私は物欲がないので狭いアパートでも全然OK。新宿区にある自社で建てた木造2階建て6部屋のアパートの一室で先日も次の入居者の為の準備をしながら「これは陽が入り明るいし、こざっぱりしたいい部屋だよなぁ、自分でも住める」と思いにふけっていました。地べたについている住宅はしっくりきて良いものですよ。

不動産デベロッパーがこんなこと言うと怒られますが、高いお金を出してコンクリートの箱を買うなら私は小さくても環境やコミュニティがあった方がいいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月30日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。