「迷ったら直感を信じろ」に従うと不幸になる

黒坂岳央です。

「考えすぎず、直感を大事にしろ」という言葉がある。結論から言うと自分はこの言葉はあまり真に受けてはいけないと思っている。

人生で直感に従って行動した結果、うまくいったことはほとんどない。逆に難しいがうまく成功裏に導くことができたものは、ほとんどすべてがあらゆる可能性を熟考して決断したことばかりという記憶がある。

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直感の正体

まずは「直感」とは何かを考えたい。まったくとらえどころがなく、思考を介さずに出した第6感のように考えている人は少なくないだろう。しかし、この正体を冷静に解体すると直感といっても過去にしっかりと熟考したり乗り越えてきた経験で感じているものであり、今考えるか、それとも過去に考えた結果を拠り所にするかという時間軸の違いに過ぎない。そうなれば当然、直感のレベルは人それぞれ大きく異なる。数々の困難を乗り越えた百戦錬磨の経営者が感じる感覚と、辛いことから逃げ回って何ら乗り越えた経験がない人が感じる感覚とでは真逆と言っていいほど違ってしまう。

そしてこの世は情報化社会、頭脳労働、リスクテイクで上を目指す構造になっていることから、時に本能と逆行する行動が真に必要なものであることは少なくない。故に、素直に直感に従うと失敗する場面も少なくないのだ。

直感を信じて失敗した話

自分はいろんな人とコミュニケーションを取ってきたが、「あれこれ考えず、直感を信じた結果、大きな失敗をした」という人に少なからず会ってきた。

たとえば筆者の知る20代半ばの女性がいるのだが、彼女は周囲や親からの猛反対を押し切って40代子持ち男性と結婚をした。しかし、相手の連れてきた子供ともトラブルになり、かつ相手の男性にも人的に大きな問題を抱えていたので半年を待たず離婚になってしまった。「確かに一般常識的に考えると、いろいろ疑問符がつく相手だが、私は自分の心に素直に従いたい」という直感を優先した結果だった。

また、ずっと憧れていたカフェを定年退職後の虎の子を使って開業。店舗経営に強い親戚の経営コンサルタントが出店タイミング、ロケーション、開業費用について必死に再考を促したが、勢いで開業してこちらも1年持つことはなかった。

そもそも、「直感を信じろ」とアドバイスされるまでもなく、うまくいかない人の多くはとっくに直感に素直に従っている。何か挑戦をする上では「優先順位的に考えれば、今はやりたいことではなく、まずは重要度の高いやるべきことから手を付ける方が効率的」という論理的で筋が通るアドバイスに従う代わりに、自分がやりたいこと、心惹かれるものばかりやる。確かに最初は興奮の熱もあって楽しいが、当然論理的に伸びるやり方でないので必ず伸び悩む。そして冷静になった後、伸び悩みを抜けられないことに絶望してやめてしまうのだ。

最初からやりたいことばかりやってもうまくいく人は、元々センスも能力も非常に高い一部の優れた人だけである。凡人はまずはやるべきことから手を付けて早く結果を出すべきだ。伸びれば楽しくなるので自然に続いていく。

一流の直感のすごさ

対して一流の人たちの感じる直感は違う。こちらはまさしく本物だ。

面接をして上長や役員が全員OKを出したが、社長だけはNGを出した。「彼はうちには合わないと思う」という。何度も会議を重ねて最終的に社長を説得し、「やめたほうがいいと思うぞ。オレはカンに自信があるから」といいながらも最後は押し切られて採用になった。しかし、入社後その人物は次々とトラブルを起こした。注意すると「パワハラだ」と騒ぎ、最後は会社のお金を横領して追い出された。社長には言語化できない何かが見えていたようである。

また、自分自身は一流でもなんでもないが、対人関係についてはセンシティブに感じ取ることがある。過去に新橋で行われた交流会で楽しく話をしている時に、ある男がやってきた。経歴も学歴も一流で笑顔もトークも素晴らしい人だった。周囲が「すごいですね」を連呼してSNSで友達登録をする中で、自分は言いようがない違和感を覚えた。うまく言葉にできないがこの人は何かがおかしい。自分は彼とSNSでつながることはしなかった。

今振り返ると、「あまりにも映える経歴と、不自然にいい人過ぎる振る舞い」が人工的に作られた演技であり、何か不都合なものを隠すためのカモフラージュに捉えたのだろう。名刺交換をした後、帰宅後に名刺に書かれた情報を元にあれこれ検索してみると、とんでもない悪行を重ねて逮捕されたことがニュースになっているヤバい人物である事がわかった。

これはあくまで想像だが、おそらくカモになりそうな人を探しに来たのだろう。「異常なほど出来すぎたいい人」は作られた虚像であるとわかった経験だった。尚、彼が会場で話した経歴などはすべてデタラメであることが判明した。

「直感に従え」は迷う人の背中を押す頼りがいのある存在に思えるが、自分はそうは考えない。この言葉が出る文脈では迷いが生じている場面であり、迷いが出るということは知識や思考が不足しているということを意味する。その場合、直感に耳を貸すのではなく多面的にあらゆるシナリオを想定してもっと考えるべきだ。もちろん、時には考えても答えが出ない場面は数多くあるが、「考えるのが面倒だがやりたい。迷う」という時の背中の一押しという雑な決断に使われるべきではないと思うのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。