首相夫人は公的資金の斡旋業を開始
首相の夫人だという地位を利用して自ら商活動に積極的に動いたファーストレディーは、スペインが民主化になってから彼女以外に誰もいない。それは違法的な行為として受け取られても、それに異論を唱える者は誰もいない。
それもそうであろう。一国の首相の夫人であるという地位を利用して、自らビジネスに関与すれば誰でも受け入れてくれるからだ。彼女の名前はベゴーニャ・ゴメス(Begoña Gómez)。スペイン現首相サンチェス氏の夫人だ。
彼女を野心家にしたのも、夫であるサンチェス首相が私的にできないことを彼女にやらせたという受け取り方もできる。何しろ、彼は政権にしがみつく為に自分への味方が増えると判断すれば手段を選ばない人物だからだ。
サンチェス氏が2018年6月に首相に就任すると、その2か月後にベゴーニャ・ゴメス氏はAfrica Centerと呼ばれた斡旋業を開始した。それはAPD Marocというモロッコで2万人の企業家が集まった組織を利用したものだ。Africa Centerの主要業務は事業の発展に資金を必要としている企業と接触して資金の提供などを斡旋しよというものだ。その資金は彼女の夫であるサンチェス首相の判断で国からの補助金を提供することになっている。
また公的企業の入札には彼女と関係を持っている企業に対して彼女が推薦状を認めて落札を容易にさせていた。縁故関係をビジネスに結びつけていたというものだ。
更に、彼女が関与していたのは公立のコンプルテンセ大学において「競争力ある社会変化」を学科として開設し、そのマスター取得のためのディレクターとなった。意外なのは、彼女は高卒で大学で修学した経験はない。勿論、大学修士の資格ももっていない。それでも首相夫人ということで、大学側では学長の独断で彼女に大学で教授資格を持っている教師をつけて、この学科を設けた。
彼女はESICビジネス・マーケティングスクールにて1989-1994年に修学したとされている。が、 彼女は1975年生まれだ。ということは、14歳から19歳という中学生から高校生の年齢でビジネススクールで修学したことになる。果たしてそれが可能であろうか?
彼女の活動にスポンサーがいた。その企業に最大の救援金が提供された
彼女の活動の中で彼女の存在を利用した企業がAfrica Centerのスポンサーとなり、その見返りとして政府から救援金が支給されたことがメディアでも注目を集めた。それを以下に言及したい。
AfricaCenterのスポンサーとなった企業は、スペインで第2の航空会社エアーエウロパ(AIR Europa)。その親会社はグロバリア(Globaria)。エアーエウロパがAfrica Centerのスポンサーになった期間の上述2社のCEOはハビエル・イダルゴ氏(Javier Hidalgo)だった。
イダルゴ氏はベゴーニャ・ゴメス氏とは以前から知り合いの中であった。ところが、彼女の夫が首相に成ると、イダルゴ氏はゴメス氏と関係を強め、Afirica Centerのスポンサーになった。その投入金額は2019年(20万ユーロ、2400万円)、2020年は(30万ユーロ)、2021年(20万ユーロ)、2022年(24万ユーロ)となっている。即ち、100万ユーロ(1億2000万円)余りをAfirica Centerを資金的に支援したのである。(3月21日付「ボスポプリ」から引用)。
2020年にコロナ禍によるパンデミックでグロバリアとエアーエウロパは顧客の急激な減少で経営危機に陥った。
この2社の創業者であるハビエル・イダルゴ氏の父親フアン・ホセ・イダルゴ氏が政策金融機関(ICO)に支援を申請して14億ユーロの融資を得た。しかし、それではまだ不十分として、2020年7月に国家産業出資公社(SEPI)にも救援金を要請。
その一方で、息子のハビエル・イダルゴ氏はAfrica Centerに資金を投入し続けた。同年に投入した金額は30万ユーロ。その年に二人はイダルゴ氏の本社で2回会合をもった。イダルゴ氏には仲介役のビクトル・アルダマ氏も会合に参加させた。
11月に入ってSEPIから最初にエアーエウロパに4億7500万ユーロ、その後グロバリアに3億2000万ユーロの支援金の支給が認可されたのである。即ち2社で7億9500万ユーロ(954億円)の支援金を得たのである。申請してから3か月余りで支援金が届くというのは異常な早さである。通常であれば最低でも認可まで半年はかかる。また系列航空会社アボリス(Avoris)にも3億2000万ユーロが支給された。
これらの認可には最終的に内閣の許諾が必要である。ベゴーニャ・ゴメス氏が関係をこれまでもって来た企業への支援金ということで、本来サンチェス首相はこの閣議決定には出席を控えるべきであるが、逆に参加して彼が最終的に認可の決定をしている。首相の執った姿勢は本来違法とされている。
上述した企業への救援金の提供が異常な早さで決まったという以外に、提供された金額が余りに高額であるというのも異例である。他社で高額な救援金を受けた企業はゼネコンのテクニカス・レウニダス社の2億4100万ユーロだけである。それ以外の他社は数千万ユーロの救援金となっている。
更に、彼女は夫が首相だという地位を利用して、情報関係のインノバ・ネクスト(Innova Next)という会社が公的企業からの入札を落札できるように便宜を図った。特に2021年と2022年の間に同企業が落札で受注した総額はおよそ2300万ユーロ(27億6000万円)。インノバ・ネクストが応札するのに彼女が推薦状を認めていたのである。この推薦状によって入札の際に審査が優位に運ばれていた。(7月16日付ABCから引用)。
インノバ・ネクストの受注を容易にしたのは、同社のオーナーカルロス・バラゲス氏が、前述したがコンプルテンセ大学で彼女が「競争力ある社会変化」の学科を設け、そのマスター取得のディレクターに就任するように便宜を図ったのがカルロス・バラゲス氏である。その恩義からサンチェス首相とベゴーニャ・ゴメス夫人は彼に便宜を図ったということだ。
それが意味するものは、入札でインノバ・ネクスト社よりも条件の良い条件で応札した他社も受注できなかったというのが何度もあった。実際、応札企業の中にはそれを指摘して不満を提訴した企業もあった。
首相夫人は起訴された
ベゴーニャ・ゴメス氏はサンチェス首相夫人であるという地位を利用して私的に便宜を図り、懇意にしていた企業への公的補助金の融通ならびに関係して企業の落札を容易にしたということで起訴されたのである。
もちろん彼女の活動にサンチェス首相が全く知らなかったということはなく、逆に共犯者である。しかし、現在までの公判ではサンチェス首相を起訴するまでには至っていないし、また彼自身は首相のポストを辞任する意向も見せていない。