川重の潜水艦の裏金はどこへ消えたの?

川崎重工の海自隊員への裏金接待問題、防衛以外の全事業で社内調査へ 朝日新聞

川崎重工業が海上自衛隊の潜水艦乗組員らに対し、下請け企業との架空取引で捻出した裏金で物品や飲食代を負担していたとされる問題で、同社は12日、防衛関連事業に限らず、すべての事業について不正がないか点検する社内調査を始めたと明らかにした。

神戸工場(神戸市)の潜水艦の修繕を担う部門では、川重側が部品を供給する下請け企業に架空取引を持ちかけ、代金を下請け側にプールさせていたとされる。裏金は少なくとも十数億円に上り、川重側が幹部自衛官や乗組員に向けて物品や商品券を購入したり、飲食接待したりした疑いがもたれている。

この裏金問題で不思議なことがいくつかあります。

まず社長が全社的に調査するといっていますが、何で5ヶ月もかかるんでしょうか。順繰りに調査していくならば、先に調査を受けた部門から情報を得たり、証拠隠滅の猶予を与えられるでしょう。

そもそも年に1億円を超える金をどう使ったのか? 接待といっても現場の隊員ですから、居酒屋とかでしょう。仮におねえさんの三助さんのいるお風呂とか、キャバクラにいってもそんなに浪費できないでしょう。商品券といっても一人に何十万円も配ったわけではないでしょう。乗員が70名として一人5万円使っても350万円、一人10万円でも700万円です。銀座で豪遊すれば別ですが、神戸ですからねえ。

そもそも現場の隊員に調達予算の権限はありませんから、高額接待することは意味がないでしょう。長期的にみれば艦長以下幹部が、予算関連の部署に移動する可能性もありますが、架空取引という危ない橋を渡って見返りのない現場を接待するのは企業としてはありえないでしょう。まあ聖人の集まりなんでしょうかね、川重は。

これは想像ですが、相応の金額がプールされているのではないでしょうか。川重は事業ごとの独立性が高く、ショッピングモールみたいな会社ですから、危ない橋渡って作った裏金を他の部署、例えば同じ防衛の航空機部門に渡すことはないでしょう。

これが短期であれば担当者が蓄財したり、遊興費に使っていたなどということもあるでしょうが、長期に渡って組織的にやっていたわけで、接待に使った残りは10億円以上あるんじゃないでしょうか。それとも仲間内で飲んでしまったのでしょうか。それにしても使い切れる金額じゃないでしょう。

しかもこの裏金を作っていた途中の2007年には、守屋次官と山田洋行のスキャンダルがあったわけです。その時どこのメーカーも商社も徹底的に社内調査したことになっていますが、その「社内調査」をすり抜けたことになります。であれば今回の社内調査も全く当てにならない、ということになります。

結局金の流れは国税が調べないとわからないでしょう。その場合何が出てくるのか、大変興味深い。いずれにしても社長と担当役員は引責辞任でしょう。それと指名停止がどの位の期間になるのか。仮に1年を超えるような場合、潜水艦の建造や整備のローテーションが大幅に狂うことになるのではないでしょうか。

【本日の市ヶ谷の噂】
防衛医大で救急専門医の資格をとり、航空自衛隊自衛隊入間病院に赴任した医官2人の内、一人退職、一人は部隊へ異動となり救急診療は出来なくなった。診療全くできない病院長(専門は病理検査)は、どうしようと困惑中、との噂。

防衛省 Wikipediaより

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態

月刊軍事研究8月号に防衛省、自衛隊に航空医学の専門医がいないことを書きました。
軍事研究 2024年 08 月号 


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。