失敗はどこまで許容されるか?:許される失敗と許されない失敗の線引き

経営を学ぶ人は成功談より失敗談を好んで聞きたいとされます。一方、話す側はあまり失敗談には触れたくないもの。特にその失敗から起死回生の一発でもあれば笑いながら「あの時は大変だった」ぐらいで済まされますが、そうではない場合は2度とほじくり返してもらいたくない話ではあります。

私が20代の時に勤め先で極めて異質の案件を担当していた経験とその過激な失敗はあまりにも衝撃的で3-4年ぐらいは触らないようにしていたのですが、自分の周辺環境も変わり、冷静になって考えてみればあの時の記憶は保存し、小説仕立てでもよいので文章に残しておいてみたいと考え直しました。そこで原稿用紙300枚ほどの実話に基づいた小説を書いたことがあります。

NicolasMcComber/iStock

過激な失敗とは3つの別々の大型不動産事業案件なのですが、先々会社の屋台骨を揺るがす一因になったともされます。その案件はあまりにも特殊で一般社員には扱わせられなかったようで、私と上司の部長と会社のオーナー3人だけの特命部隊、私はさしずめ特命係ですべての実務を担います。1年間で扱ったそれらの不動産がらみの事業総額は数百億円になります。そしてそれらは私が離任後、全部失敗となります。一部の案件はルポライターの書籍に書かれ、一部は週刊誌ネタにもなりました。特殊で一般社員に任せられなかった理由は、失敗する公算が非常に高いのがわかっているのに藁をもつかむ気持ちでやらざるを得なかった案件の特殊性ゆえであります。そこで私は記録に残してみたいと思ったのです。当時ならばジャーナリストが泣いて喜ぶ内容でしょう。今では過去の遺物です。

300ページのその原稿を本格的に書籍化にする段になり、「一応、実話に近い話なので登場人物には了解を得てください」と言われ当時の部長と会い、原稿を見せたところ、了解を得ることができなかったのです。なぜならばその部長はその後、復活するどころか、それらが原因で極めて不遇な余生を過ごしたからです。

許容されない失敗であったのでしょう。ではなぜおまえは許容されたのか、と言われれば当時の常務取締役から「君は若いから」と言われたのですが、それ以上に会長社長の秘書をしていたことで潰しづらかったのが最大の理由ではないかと推察しています。

その私がカナダに来たもののこれまた会社の特殊任務を命じれらます。将来儲かるであろう私が担当の不動産開発事業に当時、多額の運営損失を抱えるホテル事業を抱き合わせて税務上のメリットを取ろうという魂胆で私の管理する関連会社に押し付けられました。赤字はみる間に増え、社内ローンの利払いをするために別の社内ローンをするのが常態化する自転車操業で挙句の果てに担当する関連会社の累損が300億円を超え、親会社のIRに開示される懸案事案になります。散々です。

社員3名の会社がこれだけの累損では話にならず、これはいかんということで始めたのが起死回生の大構造改革計画です。本社の協力も得て約5年で累損をほぼなくすのです。自分が魔法使いかと思うほど、見事に決算数字は改善します。そしてその構造改革を終えたところで親会社は倒産し、私がその関連会社を買収し今に至るという奇妙な縁につながります。

私のこの例はあまりにもスケールが大きすぎるのですが、それ以外にも失敗は数知れずあります。逆に失敗が多すぎて多少の失敗ぐらいではへこたれない強さが身についたとも言えます。どんな逆境にも解決策はあると考え、それを気力で解き続けた人生だったと思います。

許される失敗があるかと問われれば経営者である立場からすれば原則的にはそんなものはないと考えています。仮に失敗したらその名誉を挽回する功績をたてるぐらいの気力は必要だと考えています。

今の社会でそんな厳しいことを述べたらコンプラやら社会からのバッシングにとても太刀打ちできません。そうはいっても「君はできるだけのことをやったんだ。この失敗を糧にして次に進んでくれ」といえるのは大企業の美談であって、中小企業では時として、些細な失敗が会社の命を止めることにもつながります。

よって落としどころは経営側が従業員の最大の失敗はどこまで許容されるべきか目星をつけておくことなのだろうと思います。その失敗が会社や経営者にとって許されるチャレンジの範囲で収めるしかないと考えます。これは考え方によっては日々発生するケアレスミス程度ならば失敗した本人が一番責任を感じているわけですから上司の一定の指導で解決できると思います。

上司の太っ腹とか優しさというより論理的な基準線を作り、経営側と従業員側が共有することで功罪を明白にすることが大事なのでしょう。双方、禍根は残したくないのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月18日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。