独立・起業にまつわるよくある勘違い

黒坂岳央です。

「いつか脱サラして自分のビジネスで食べていきたい」そう考えても現実、なかなかうまくいくわけではない。自分は本当にしつこく挑戦し続け、人並み以上に時間がかかってしまったがなんとか軌道に乗って食べていけるようになった。

「これは多くの起業志望者が間違えている」と感じるよくある勘違いについて独断と偏見で取り上げたい。

DNY59/iStock

1. 好きなことで生きていく

最もやりがちなミスは「自分がやりたいこと」で独立を目指すことである。これを言ってしまうと反発も予想される。当然だろう。世の中の多くの場合、やりたいことがあってそれを実現する手段として独立を目指すからだ。しかし、現実的にこれはほとんどの場合はうまくいかない。なぜならいきなり挑戦して一発で成功できるような技術も知識も十分でないからである。

結論的には「やりたいことで起業する」のではなく「世の中にニーズがある仕事で起業する」で挑戦するべきだ。

まず、「自分がやりたいこと、相手がやってほしいと思うこと」の間には途方もない距離があることがほとんどだ。スポーツ選手やトップビジネスマンは小さい頃からの夢を大人になって実現させているので、「そうか、自分が好きなこと、やりたいことで挑戦すればいいんだ」と思ってしまう。

だが、そうした事例は正しく一部の大変優秀な人になせる業であり、ほとんどの人には再現性はない。「でも自分が好きだから結果なんて出なくてもいい」と無理に始めても、結局、結果が出ないから資金的にもメンタル的にも挑戦を続けられない。

最初は自分がやりたいと思っていなくても、小さい頃からの夢でなくても、世の中の人が求めている、役に立つ仕事からスタートするのだ。最初は興味がなくても、売れ続けて感謝の声が届き始めたら「もっと伸ばすにはどうしたらいいか?」と向上心が出始め、ドンドンその仕事を後から好きになる。1つビジネスを成功させて資金や時間に余裕ができたら、その次の仕事で好きなことをすればいい。だが、まずは成功させる必要がある。

やりたいことで成功を目指すのは強者の理論である。最初は自分の欲求より世の中のニーズに滅私奉公するほうが成功できるだろう。

2. 仕組み化できれば働かなくてもいい

経営者になって従業員を雇えば、自分は仕事に介在せずほぼ不労所得のようになるという意見を見ることがある。確かにあくまで短期的なスパンで言えばこの理論は通用するし、自分も会社を従業員に任せて長期旅行に出かけることがあるので部分的には正しいと感じる。

しかし、これが数ヶ月、数年レベルで放置できるか?というと間違いなくそうではない。特にネットが絡む事業はそれが顕著である。ネットで広告を出したり、記事や動画経由でアクセスを集め、一部の顧客に買ってもらうネットマーケティングをする上では常に改善し続ける必要がある。

たとえばネット広告を出すなら、クリエイティブと呼ばれる広告で同じものを使い続けると反応度が落ちてくるので、テストを繰り返しながらクリエイティブを変える必要がある。

また、記事や動画も「一度出したら資産化してアクセスを集め続ける」という意見は間違いで、一切更新をしなくなるとプラットフォームのAIアルゴリズムはおすすめや関連に表示しなくなるので、一気にアクセスが落ちる。イメージが悪いが滑車の中で走り続けるハムスターのように記事や動画はずっと更新し続けなければアクセスはいずれ消えるのだ。

また、労働が必要なのはマーケティングだけではない。経営においてもそうだ。社長不在で従業員だけに現場を任せていると確実に問題が起きる。理由はシンプルで、経営者と従業員の利益は度々相反するからだ。

簡単な話、社長は売上を伸ばしたいインセンティブがあるので、あれこれ施策を打ったりPDCAを回すが、往々にして安定性を求める従業員はこうした挑戦を面倒に感じるものである。これは従業員を批判しているわけではなく、立場の違いがインセンティブの違いになるだけで自分自身もそうだった。管理者や変革者不在になると、安定はするが売上は先細りしていく。やはり、現場から離れて経営に従事する役割は組織には絶対に必要なのである。

そう考えると、ビジネスで完全不労所得などあり得ない。多くの経営者は比較的自由度が高いというだけで、一度仕組みを作ったら完全放置でOKなどありえないのだ。

3. 起業すれば自分らしく気ままに生きていける

最後によくある勘違いが「独立すれば上司もおらず、誰にも気を使わずに素の自分で生きていける」というものである。これは自分自身も勘違いしていた。

まず、従業員を抱える社長になる場合は「社長」という役割を演じる必要がある。社長なので愚痴や不安など軽々しく口にはできない。上昇志向の高い従業員ほど「ここで働けば自分も成長できる。社長からも学べる事がある」と考えて働くものなので、弱々しくて頼りない姿など見せてしまえば優秀な人から離脱してしまう。

また、期待値通りにならない社員に本音をぶちまけてしまえば、あっさりとパワハラ認定される時代だ。正直、社長は従業員以上に本心を出し辛い役割だと自分は思っている。ちなみに最も本心を出しやすいのが若い新人社員ではないだろうか。若いから多少の間違いや物言いは許されることも多い。

では一人社長やフリーランスなら自由気ままか?というとまったく違う。特定の太い取引先や、クライアントワークをする場合、その取引先には絶対に逆らえない。人気漫画家などでない限り、自分の代わりは世の中にいくらでもいるので仕事の納期などを含め、多少無理を言われても仕事をもらい続けるためには頑張る必要がある。もしも相手の神経にさわる物言いをしたら、それで仕事が来なくなることだってある。

また、YouTuberやブロガーなど人気商売も視聴者、読者を意識せずに仕事は不可能である。反社会的、差別的な言動一発で信用がゼロになる。かといってChatGPTが出力しそうな無難なことばかり言っても「つまらない」と飽きられてしまうのでギリギリのゾーンを攻める難しさがあったりする。

結局、上下関係が嫌でサラリーマンをやめても今度はクライアントや市場が上司になってしまうのだ。たとえ人気タレントでも、自分の人気を支えてくれる熱心なファンの方を見て仕事をする必要があるのだ。

「起業して成功すれば人生バラ色」と考えてしまう人は少なくないが、その実外から見るより大変なことは多いし、やる前に勘違いして取り組むと失敗する。本稿で取り上げた誤解を解いて取り組めば幾分成功率を高める事ができるのではないだろうか。

 

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。