激動する国際社会の中で「国際協力」はこれからどうなるか

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私は国際関係学の中でも平和構築という政策領域を専門にしている。隣接分野とあわせて「国際協力」とくくることができる分野だ。この分野は、現在、歴史的な岐路に立っている。

たとえば、国連の平和維持活動(PKO)は、過去10年弱の間で、16あった派遣ミッション数が11になり、予算は3割減り、派遣要員数は4割以上減った。

さらに、紛争地などで行う緊急人道援助のための予算が、冷戦終焉後ほぼ初めて、2023年度に、前年度の予算を下回った。注目が低い地域の国連の人道援助機関の人員が削減され、地方事務所の統廃合などが進んでいる。

また、開発援助の予算は伸びているが、実は、開発途上国向けの援助額が減少している。開発途上国向けではない開発援助とは何か?というと、つまりウクライナのような国向けに資金が吸収されているのである。

伝統的な援助資金提供国の経済力の世界経済におけるシェアは低下の一方で、国際機関等に疎遠な新興のBRICS諸国はドルの基軸通貨体制に挑戦する体制固めを進めている。援助業界が影響を受けないはずはなく、先を見る目が求められている。

日本の位置づけはどうなっているか。最近の日本では、岸田首相が外国訪問をして援助の額面を表明するたびに、「ばらまきはやめろ」という声がSNSであふれたりする。自国の経済・財政状況が不安なドナー諸国の間の傾向を、日本も共有している。特に日本が、発想の転換が求められている国の代表例の一つになっている、と言うことも可能だろう。

日本は分担金と呼ばれるGDP比に応じて支払う財政貢献と、拠出金と呼ばれる個々の専門的な国際機関に任意で支払う財政貢献の両面で、国際機関に大きな貢献をしてきている。ただし、現在は国連予算の8%を占める日本の国連分担金は、ピーク時の4割程度の水準だ。

世界経済における日本のGDPの比率(現在は4%程度)が低下し続けているため、3年に一度の見直しのたびに激減する。今後も減少し続ける。これは国際機関に対する日本の影響力の必然的な低下を意味する。

国際社会で安定的な存在感を確保しながら、自国の利益を追求する足場も固めるために、日本政府は国連などの国際機関における日本人職員の数を増やすように努力してきている。その成果から、国際機関における日本人職員数は史上最高の状態となっている。2022年末で961名である。

ただし今後も国際機関で日本人職員に活躍してもらうためには、低下の一途の国家としての日本の影響力に期待し続けるだけでは、無理だ。

私は、2007年度から今年の3月までの17年間にわたって、外務省委託契約を受けて一般社団法人広島平和構築人材育成センター(HPC)代表として「平和構築・開発のためのグローバル人材育成事業」という事業の責任者を務めた。平和構築を中心とする国際協力の分野で日本人の人材を育成するという課題に対応するため、各種研修やキャリア構築支援を行う事業であった。

私は「平和構築」という自分が専門とする領域への思い入れから事業運営に関わり始めたのだが、外務省は国際機関における日本人職員数を増やす、という目標の達成を至上命題にしていたので、非常にきつい業務であった。

結果として、統計対象とした15年間で、毎年10数名の日本人を採用していた中核コース参加者の約半数の113名が、国連職員として活躍している。

ある一つの事業の修了生が、上記の国際機関日本人職員の全体数の中でかなりの割合を占めているということは、それなりに大きな事実である。ある国連職員に、奇跡的な成果だ、と言ってもらったこともある。

もっとやれることがあった、という気持ちが常にあったため、いつも苦笑いをしていたが、終わってみると、非常に大変だったが、よくやった。知識、経験、技能、性格、環境、などの諸要因から、国際機関で日本人がキャリアを構築していくために何が必要か、ということを常に考え、そのための支援方法を考え続けていた。常に成果を出し続けていかなければならないプレッシャーも大きかった。

そのため事業運営を終えてみると、正直、安堵の気持ちの方が大きい。17年の間に何度も、もうやめよう、と思ったことがあったが、関係者の方々らに説得されて、続けていた。今回は、外務省の方針変更で、私の意図ではなく、事業関与が終わったので、余計に安堵している。

他方において、激変する国際社会の中で、国際機関のキャリアをどう考えればいいのか。調べ続けたいことや、考え続けたいことが、多々ある。苦労に苦労を重ねて蓄積したノウハウやネットワークを役立てる場をゼロにしてしまうのも、惜しい気もした。

そこでHPCとして独自の各種研修活動を立ち上げた。

「YOOR」というプラットフォームからのオファーをいただき、希望者に継続的に国際機関のキャリアについて語っていくオンラインサロンも立ち上げることにした。

オンラインサロン / コミュニティ運営なら YOOR「ユア」
YOORは、オンラインサロン専用トークルームを完備した、コミュニティやファンクラブ、オンラインレッスンの場として利用できるプラットフォームです。

55歳になったところだが、定年退職の年齢までを数えても、まだしばらくある。激変する国際社会を、自分の専門や関心分野の観点から、見つめ続けていこうと思っている。

【紹介動画】