ポピュリズムの玉手箱 、ハリス氏は大統領になれるのか?

手腕が未知数ゆえに期待感が上がる、これはどんな世界でも同じ現象があります。

IPOしたばかりの企業の株価が突然何倍にもなることがしばしばあります。この企業の未来は明るい、と投資家は夢を買うからです。ですがその後、10中8,9、株価は暴落し、元の木阿弥となるのが普通です。自民党総裁選でメディアが注目するのは小林鷹之氏。理由は未知数だけど「何かやってくれそう」という期待感が先行しているからです。メディアや国民がわかっている熟達の政治家よりも今までスポットライトが当たっていなかった人にインタビューし、追っかけ記事を書くことはメディアの職業的には王道であります。

ハリス氏のケースも全く同様。彼女の手腕は全くわかりません。ようやく民主党大会で具体的な政策を提示しつつありますが、ポピュリズムの玉手箱のように見えます。もちろん今の政治家からポピュリズムを取り除けばただの人という方程式は小学生でもわかる話ですが、明らかにばらまき型ですが、そのばら撒き財源を企業への大増税で対応しようというもの。かつてならば経済界は大ブーイングで株価が暴落して抵抗を示したものです。

ワルツ氏とハリス副大統領 同副大統領インスタグラムより

ハリス氏の案では法人税21%をトランプ氏以前の28%に戻す、企業が外国で稼いだ金も今の2倍以上の21%課税にするのであればアメリカ進出を目指す外国企業には「ちょっと待て、ハリスの増税、赤信号」と言わざるを得ない話になるでしょう。

あくまでも個人的意見ですが、ばら撒いても国は良くならない、これが基本です。2:6:2の法則をご存じの方は多いと思います。経済学の「パレートの法則」である8:2の原理から発展的に考察されたもので、世の中6割の中間層に対して2割の下位集団と2割の上位集団はどんなときにもできるというものです。

私がベーシックインカムに反対なのはいくらばら撒いても中間層は中間層でしかなく、常に2割の下層集団が生じるという世の中の原則は何をやっても起こりうるからです。極端な話、費用対効果は非常に低い、とも言えます。これはバラマキが受動的社会を生み出すからで能動的行動を生み出す社会の雰囲気を醸成していないことから起きます。

例えば良きアメリカの時代、1950年代から60年代は男はベトナムなどの戦争に駆り出され、経済活動を担う国内労働力が圧倒的に不足、そのために女性の社会進出が一気に進んだという背景一つとってみても能動的に女性が「私たちがやらねばならない」という機運が作り上げた繁栄の社会だったのです。アメリカで黄色いスクールバスの運転手に女性が多いのは子供たちを送り迎えするバスの運転手がいないから私たちが運転しなくてはいけないという能動的行動からスタートしています。

現在北米で見られるのは男は現場で仕事、女は事務仕事やアカウント レップ(日本では定義的にあまり当てはまらない職種ですがクライアントとの関係業務を担当する人)という流れはこのあたりから生まれたのです。男女区別という話ではなく、業務が最大効率で機能するベストマッチなのです。

私が住むカナダ ブリティッシュ コロンビア州は長く中道左派、つまりバラマキが大好きな新民主党が政権を握っています。理由は移民が多いからです。ニューカマーにとって平等はありがたく、心地が良い、これは認めます。ですが、この街から世界どころかカナダ全土に発信する企業なんてなかなか生まれてこない、これもまた事実なのです。働く意欲とポピュリズムは二律背反とも言えるのです。

ところが選挙となれば中間層がボリュームゾーンですからそれこそ、2:6:2の法則を効率性だけでとらえれば上位2割と下位2割を無視し、中間層6割だけにフォーカスすれば論理的には勝利できることになります。一方のトランプ氏は奇妙な戦略ですが、上位2割と下位2割をフォーカスした4割のコアなファンと中間層のうち準下位および準上位あたりを取り込み5割近い支持率をとるという形に見えるのです。

そうすると当然ハリス氏が王道を行き、トランプ氏が邪道の政策になるのですが、「刺激」という点でハリス氏の政策に面白みが欠ける点は否めないかもしれません。トランプ氏のそれは唐辛子が効きすぎてヒリヒリする、だけど支持者に快感を与える、というのが私なりの表現です。

ヒラリークリントン氏が「(ガラスの天井)を突破することに限りなく近づいている」とハリス氏にエールを送っています。ヒラリー氏にしてみれば自分が成し得なかったことをハリス氏が実現にまい進しているのが感慨ひとしおなのだと思います。私は国家元首は男だろうが女だろうがまったく気にしておらず、ふさわしければそれでよしなのです。ただ、ヒラリー氏は女性がトップになることをあまりに強調するあまり逆差別のようにも聞こえるのです。彼女のステートメントはその点で古くさく、現代社会にマッチしていないのです。

アメリカで女性大統領が就任するときは就任するのです。それが今回かどうかはわかりません。それを決めるのはアメリカです。トランプ氏は強いアメリカの復活を明白に提示しています。ハリス氏は居心地よい社会でしょうか?アメリカは日本のように高齢者化社会ではないのです。もっと野望がある社会を生み出す力強さを示さないと心に訴えるものがない気がします。

ハリス氏は私の感覚では極めて優秀な実務担当者。日本でいうなら事務次官をやらせたら相当有能だと思いますが、人々のベクトルをまとめる手腕は本当に未知数であります。ただし、大統領せきょは後戻りできない、これまた事実であり、選ばれた人と共にアメリカの船出が始まるともいえるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月22日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。