南海トラフ地震への過剰警戒が他の地域の地震被害を広げる

今月上旬に日向灘を震源とする地震があり、気象庁が南海トラフ地震の臨時情報を発表し、地震に対する警戒が高まりました。

その直後に注文した「南海トラフ地震の真実」という書籍を読み、そもそもの南海トラフ地震の発生確率が過剰に算出されていることを知りました。

この本はいわゆるトンデモ本ではなく、新聞記者が専門家への丁寧な取材を行った上で紙上連載をまとめて作られた内容で「第71回菊池寛賞」も受賞しています。

そもそも現時点の科学技術では地震の発生確率を数値化することはできません。様々な発生確率の算出方法を試行錯誤する中で、最も確率が高くなる「時間予測モデル」という方法が「大人の事情」によって優先され、それが南海トラフ地震の高い発生確率に結びついているのです。

「大人の事情」とは地震対策の予算を受け取るための利権です。科学的根拠のないデータを恣意的に加工し、それが地震対策の予算獲得の手段として使われているという訳です。

地震の発生確率を高めに見積もっても、防災意識が高まる効果もあり、悪いことではないと思うかもしれません。

しかし、南海トラフ地震への警戒が高まれば高まるほど、日本のそれ以外の地域の防災意識が相対的に弱まるという問題があります。そして、警戒地域に指定されていない場所の防災予算は少なくなり、住民の危機意識も弱くなります。

bymuratdeniz/iStock

これまでも、大きな地震の発生が想定されていなかった日本各地で大きな地震が発生しています。それによって甚大な被害が生まれているにもかかわらず、地震調査推進本部などの政府の地震関連組織に対する批判はほとんど生まれず、いまだに都合の良い解釈がまかり通っているのです。

日本に住む限り、どこにいたとしてもいつ大きな地震が起こるを事前に知るだけの研究成果はまだありません。

だとすれば、地震情報等には過剰に反応せず、普段からどこにいても対応できるように入念な準備をしておく。地震対策はそれに尽きるのではないかと思います。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年8月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。